バスの完全キャッシュレス化は過渡期が問題! 現金とキャッシュレスの混在が招く混乱 (2/2ページ)

現金決済とキャッシュレスの混在は混乱を招く

 ロサンゼルス市及びその周辺地域で運行しているMTA(Metro Transportation Authority)バスでも、TAP(Transit Access Pass)と呼ばれるリアルカードやスマホアプリ、アップルウォレットなどで運賃の支払いが可能となっている。なお、TAPカードは金額を繰り返しチャージ可能で現金だけではなくクレジットカードやデビッドカードでのチャージも可能となっている。それでも、治安の悪いロサンゼルス地域でもあるが、現金での乗車を継続している(ただしお釣りは出てこない)。

 筆者が見てきた限りではあるが、新興国は完全キャッシュレスが進み、先進国ではキャッシュレス決済の導入は進めるものの、現金決済も残していると見ることもできる。

 中国がかなりのスピードでバス運賃以外でもキャッシュレス決済を普及させたが、これはニセ札の流通があまりにも多かったことも影響している(流通紙幣全体の3割ぐらいが偽札と聞いたこともある。高額紙幣ならまだしも偽造コストのほうが高いのではないかと思える小額紙幣までとにかく多かった)。筆者もコロナ禍前、まだ現金決済でも不自由しなかったころによく中国を訪れていたが、かなりの頻度で偽札をつかまされることがあった。

 ニセ札対策のほか、お金の流れの透明化という観点でもキャッシュレス社会の実現を急いだように見える。新興国では現金を手元に置くという習慣もあまりないとも聞く。ただし、信用調査でひっかかることも多く、我われのように比較的簡単にクレジットカードを作ることもできない。そこで、ICカードでの決済範囲を広げたり、スマホでも本体機器の買い取りなどで所有することが難しい市民も目立ち、そのような市民にもプリペイドタイプのものを用意してもたせてキャッシュレス社会の実現を進めている国もあるようだ。

 新興国では「お金の流れを細部まで把握したい」というものがあって、キャッシュレス社会の実現を目指しているようにも見える。

 アメリカでは市民の間で早くからクレジットカードでのキャッシュレス決済が進んでいるが、クレジットカードをもたせる意味からも、それほど所得の高くない層の人たちがもつクレジットカードの利用限度額が極端に少ないので、かなりの枚数となる複数枚所有が当たり前とも聞き、1回の買い物でも複数枚数で決済することも珍しくないとも聞いている。

 そうなると、とくにそのようなひとたちが多く乗る公共交通機関での完全キャッシュレスの実施にはなかなか踏み込めないようにも見える。格差社会が激しいだけにバスでの現金乗車可能が続いているのかもしれない(ポリシーで現金決済にこだわる人も多そう)。

 日本は利用者の利便性など、利用者に寄り添ったものというよりは、事業者に配慮しての完全キャッシュレスの実施を目指そうとしているように見える(路線維持のためとはいうけれど)。報道が先行していることもあるのか、「貧しい国」というイメージも定着しつつあるとされる日本でも、慎重な完全キャッシュレス化を進めてもらいたい。

 仮に外国人利用が多い路線などのみ、つまり完全キャッシュレスと現金乗車も可能な路線が一定地域で混在するようになれば、利用者が困惑するだけではなく、事業者も新たな面倒を抱えそうな気もするのだが、それは考えすぎなのだろうか。やるのなら全国津々浦々完全キャッシュレスにして「日本の路線バスは現金乗車できない」としないと、混乱を招くだけのような気もする。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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渡 哲也(団長)、石原裕次郎(課長) ※故人となりますがいまも大ファンです(西部警察の聖地巡りもひとりで楽しんでおります)

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