この記事をまとめると
■AT車がブレーキを踏んでいないとゆっくりと動き出すことを「クリープ」と呼ぶ
■オートマチックトランスミッションのトルクコンバーターが「クリープ」を生じさせている
■EVに関してはクリープの有無が議論となることがある
クルマが勝手に動く現象の仕組みとは
一般的なオートマチックトランスミッション(AT)車は、アイドリングで停車中、ブレーキペダルを踏んでいればクルマは止まっていて、エンジンはアイドリングを続け、エンストすることはない。そして、ブレーキペダルから足を離すと、ゆっくり動き出す。この動きを、クリープという。
クリープとは、もともとはモノに持続的な力が作用し続ける様子をいう。そこで、AT車の場合は、アイドリングしているエンジンの力が働き続けていることを指す。それによって、クルマがゆっくり動くのだ。
クリープは、マニュアルトランスミッション(MT)車では起きない。
AT車とMT車の違いは、エンジンと変速機(トランスミッション)を繋ぐ機構の違いにある。
MT車は、エンジンと変速機の間にクラッチがあり、その断続で、エンジンの力を変速機へ伝え、最終的にはタイヤを回転させる。
AT車は、エンジンと変速機の間にトルクコンバーター(流体継ぎ手)がクラッチの代わりにあり、変速機からタイヤへ回転が伝えられる。このトルクコンバーターが、クリープを生じさせる基になる。
トルクコンバーターが流体継ぎ手と日本語でいうように、エンジンの力を流体の伝達作用によって変速機に伝える。詳細な機構は次のとおりだ。
エンジン側と変速機側に回転翼がそれぞれあり、エンジンの回転はその回転翼によりAT液(フルード)と呼ばれる液体をかき回す。その回転の勢いが、変速機側の回転翼に回転力を伝え、変速機が回転する。
回転力の伝達に液体を使うため、滑りが生じ、それによってエンストを起こさないことと、エンジン回転を常に変速機に伝え続けるという、ふたつの働きをもたらす。
トルクコンバーターではなく、クラッチを使う場合は、金属の回転板(フライホイール)と摩擦材でできたクラッチ板という個体同士の断続になるので、滑りはあまり生じない。このため、クラッチをつないだままクルマを停止させると、エンストしてしまう。そこで停車する際は、フライホイールとクラッチ板を切り離す操作が必要。これはクラッチペダルを踏み込むことで行われる。
では、トルクコンバーターを用いないAT車でも、クリープが働く車種があるのはなぜか。
MT車のクラッチも、発進などでは半クラッチといって、ペダルの踏み込み加減で滑りを生じさせ、滑らかに発進させる操作を運転者が行う。これを、クルマが自動的に行うことで、トルクコンバーターをもたず、クラッチを使うAT車でもクリープを使うことができるようになる。
ただし、半クラッチは、摩擦材をより消耗するので、頻繁に使うと摩耗が進みやすくなる。それは、MT車でも同じだ。
発進の際や後退のときには、速度を抑えて慎重な運転が求められるので、クリープに慣れると運転しやすさを覚える人は多いだろう。一方で、アクセルペダルを踏んでいないにもかかわらずクルマが動くことは、操作とクルマの動作との関係上、不自然なことであるのも事実だ。したがって、電気自動車(EV)では、クリープの有無について賛否の意見がある。