専用設計してまででも実現したかったクルマもあった
ECA 直列3気筒SOHC VTECリーンバーンエンジン
1990年代に存在感を示したG型エンジンと入れ替わるよう、1999年に量産されたのが1リッター3気筒の「ECA」エンジンだ。ホンダマニアであっても、このエンジン型式からどんなクルマに搭載されていたか、パッと思い浮かばないかもしれないが、それも当然だろう。このエンジンはアルミ製の超空力ボディを与えられたハイブリッドカー、初代インサイトに搭載されている。
エンジンとトランスミッションの間に薄型モーターを挟むというレイアウトを基本とするインサイトのハイブリッドシステム「IMA」は、その後も多くのホンダ車で展開されたが、初代インサイトでは、とにかく燃費性能を追求するためにリーンバーン(希薄燃焼)を実行するためのVTEC機構や、コンパクトなボディに収めるべく3気筒レイアウトの採用、軽量化に寄与するマグネシウム製オイルパンなど、くまなく専用ユニットとして生み出されているのが特徴。
まさに“変態的”というほめ言葉が似合うホンダエンジンといえよう。
JNC V型6気筒DOHCツインターボ
最後に紹介するのは、開発過程においても異色なヒストリーを持つJNCエンジン。そう、2代目NSXのミッドシップに縦置きされた3.5リッターV6ツインターボである。
ボア91.0mm・ストローク89.5mm、総排気量3492ccとなるV6エンジンは、最終進化形といえるNSXタイプSではエンジン単体で最高出力389kW(529馬力)、最大トルク600Nmとなっていた。ちなみに前後に置かれた3つのモーターを含めたシステム最高出力は449kW(610馬力)、システム最大トルクは667Nmであるから、NSXのパフォーマンスにおいてエンジンが占める割合が大きいことがわかる。
ただし、最初からエンジン主体のパワートレインというコンセプトだったわけではなさそうだ。2代目NSXの開発途中ではNAのV6エンジンをミッドシップに横置きしてハイブリッド風味の強いスポーツカーを目指しいていた時期もあった。しかし、ハイパワー化が進む21世紀のスーパースポーツにおいてNAエンジンでは競争力的に厳しいというのが結論になったという。
そこでターボによって過給するエンジンを積む、というドラスティックな設計変更が実施された。ターボ化にあたってエンジンを縦置きにしたほうがレイアウトの面で都合がいいのは、NSXの透視図を見ても明らかだ。
結果として、NSX専用の3.5リッターV6ツインターボ「JNC」が生まれることになった。このエンジンで特筆すべきは、バンク角が75度となっている点。これは初代NSXのV6エンジンのバンク角(90度)とも、最終のレジェンドなどに搭載されたV6エンジンのバンク角(60度)とも異なる。まさにブロックから専用となっていることがわかる。
それだけに、少量生産になってしまうJNCエンジンを商業的に成立させるべく、そのブロックやヘッドの製造についてモータースポーツ用エンジンで知られるコスワース社に依頼していたというエピソードも、ホンダのなかでは異例といえる。
ちなみにNSXではトランスミッションも9速DCTの専用ユニットだが、こちらはホンダ発祥の地といえる浜松製作所(現:トランスミッション製造部)で組み立てられていた。けっしてパワートレインを安易に外注したわけではないといえるので、誤解なきよう。