この記事をまとめると
■FFなのに5気筒縦置きされたG型エンジンはホンダのこだわりが込められた
■ECAエンジンはハイブリッド車専用に生まれた超軽量3気筒エンジンだった
■JNC V6は従来V型エンジンとは異なるバンク角75度でNSXのためだけに作られた
技術者のこだわりとロマンが込められたホンダのエンジン
電動化時代であってもエンジンにこだわるユーザーが少なからず存在しているのは、エンジンというメカニズム自体にロマンがあるからなのかもしれない。そのなかでも技術者のこだわりが詰まりまくったニッチなエンジンに対しては、「どう考えても攻めすぎ」、「ほめ言葉として“変態”的」……といった表現が使われることもある。
そんな“変態的”エンジンが目立つブランドといえば、やはりホンダではないだろうか。ここでは過去にホンダが生み出してきた数多のエンジンから、とくにニッチ度が高い3つのユニットをピックアップ、時系列に沿って振り返ってみたいと思う。
G20A/G25A 直列5気筒SOHC 20バルブエンジン
まずはバブル全盛期に開発され、アコードインスパイアやビガーなどに搭載された直列5気筒“G型”エンジンから紹介しよう。直列5気筒というシリンダーレイアウトだけでいえば、国産ではトヨタの3.5リッターディーゼルエンジンがあり、FFでもボルボやフィアット、アウディといった欧州ブランドでの搭載例は知られているが、ホンダのG型エンジンが特徴的なのは、それがFF車に縦置きレイアウトとすることを前提に生まれた点にある。
FFの縦置きレイアウトというのはけっして珍しいわけではなく、現在でもスバル・インプレッサなどのFF車は水平対向エンジンを縦置きにしているし、ホンダがアコードインスパイアを生み出す以前にも、アウディは直4・直5エンジンを縦置きにしたFFモデルを量産していた。バブル期に流行った“赤いアウディ80”もまた直列エンジン縦置きのFF車だった。
これらエンジンを縦置きにしたFF車において、エンジンは駆動輪であるフロント車軸の前に置かれている。これは駆動輪のトラクションを確保するためのオーソドックスな設計手法であり、現在のスバル車においてもそうなっていることはご存じのとおりだ。
しかしながら、ホンダは多気筒エンジンならではのスムースネスと同時に、FFのパッケージにおける革新の思いを込めて、直列5気筒G型エンジンを開発している。驚くべきことに、ホンダは『パワープラントの重心を前車軸の後方に置く』ことを公言している。つまり、FFながらフロントミッドシップにエンジンを搭載したのだ。通常の設計ではエンジンとドライブトレイン(シャフトやデフ)が干渉してしまうため、クランクケースやオイルパンに中空エリアを設け、そこをドライブトレインが貫通するようなレイアウトとしている。
さらに当時のホンダ車に共通していた低いノーズを実現するためにエンジン自体を35度傾斜させて搭載することも織り込んだ設計となっている。エンジンを傾けたことにより生まれたスペースは吸気系レイアウトの自由度を上げることに活用したというのは、まさにFFミッドシップ専用設計だからこそのエピソードだ。
ちなみに、1989年に初お目見えした際のG型5気筒エンジンは「G20A」で総排気量は1996cc、その後1992年には2451ccまで排気量アップした「G25A」が登場。いずれもSOHCヘッドの気筒あたり4バルブ、つまり5気筒20バルブとなっていた。搭載モデルは、アコードインスパイア、ビガーのほか、アスコット、セイバー、ラファーガといったところ。1990年代におけるホンダのミドル級モデルにおいて一大勢力を築いていた。
また、意外なことながらホンダの50周年を記念して生まれたピュアスポーツカー「S2000」のプロト的ショーモデルである「SSM」にはG20AをDOHC VTECヘッドとしたエンジンが搭載されていた。FRの直列5気筒フロントミッドシップというパッケージが実現していれば、自動車史に残る名車が生まれていたかもしれない。