この記事をまとめると
■フォードが中・大型SUVにおけるEVの導入を凍結することを発表
■アメリカではテスラによりEVが増えるもアーリーアダプターが飛びついたにすぎなかった
■EVシフトは当分先になると予想したフォード首脳陣の判断によるもの
アメリカのEV市場の伸び悩みで販売戦略を修正
やっぱり無理だったか……。アメリカのフォードが8月、EVに関する事業戦略を公表。そのなかで、EV量産化に向けた研究開発の軌道修正を示し、当初予定していたフルサイズやミッドサイズクラスのSUVでのEV導入を事実上、凍結することを明らかにした。
その背景には何があるのだろうか。もっとも大きな理由は、アメリカでのEV市場の伸び悩みだ。
アメリカにおけるEVは、2010年代前半にテスラ「モデルS」が登場したことで富裕層がEVへの関心を高め、それが2010年代中盤以降になると、同「モデル3」と「モデルY」によって庶民の一部でEV重要が一気に高まった。
これをあと追いするかのように、日欧メーカーもアメリカでのEVモデル対応を急ぎ、その流れにフォードも加わるカタチとなった。
ところが、2022〜2023年になると、テスラを筆頭としたEVブームに陰りが見えてきた。その理由について、「アーリーアダプターの需要が一巡したから」と説明する経済メディアが少なくない。アーリーアダプターとは、新しい技術やビジネスモデルにいち早く関心をもち、実際に対象となる商品を購入する人たちを指す。
EV需要の拡大に向けて重要なポイントは、新車コストをハイブリッド車並みまで落とすこと、満充電での航続距離が日常生活のなかで十分であること、そして充電インフラが拡充することが挙げられる。
だが、実際には、アメリカでは「テスラブーム」が、まるでEV普及期への移行のような印象を与えただけだった、という見方もできる。テスラブームによるアーリーアダプターから、次のステップである、一般ユーザーへのEV普及へとは結びつかなかったのだ。
フォードとしては、現在のアメリカでのEV市場の現状をそう分析しており、かつ中・長期的な市場予測としても、アメリカメーカーの主力商品であり、フォードにとっても経営の柱である中・大型SUVでのEVシフトは当分先の話という見解に至ったといえる。
さらに、11月の大統領選挙後、アメリカの自動車産業に関する施策がどうなるのか、現時点では先行き不透明な情勢だ。とくに、共和党トランプ政権が再び動き出した場合、EV市場に対する逆風が吹くかもしれないという懸念もある。
そうしたなか、フォードとしてはFシリーズにおけるEV化を継続するとしても、中・大型SUVについてはトヨタを筆頭として市場の需要が高まってきているハイブリッドモデルの拡充を急ぐという選択だ。
市場の現実を冷静に見た、フォードの経営判断である。