フィアットに気を使いフランス車として販売されたベスパ400
さて、ピアッジオ製のマイクロカーは搭載された400ccエンジンにちなんで「ベスパ400」と名付けられ、1958年にロールアウト。前年9月にはモナコでお披露目イベントが開かれ、ピアッジオとしてはあくまでフランス製をアピールし、番長のフィアットに気をつかったようです。
いうなれば、ノッチバック2ドアセダンのスタイルですが、リヤセクションはエンジンルームで、荷室はフロントフード下になります。ルーフはイタリア人が大好きな巻き上げ式ソフトトップを採用しており、これでもかと開口部を広げたスタイル。
シートは2席のみですが、大半のユーザーがリヤスペースに子どもを乗せていたとか。ただし、リヤバルクが相当熱くなったとコメントする元ユーザーもいますので、快適性はさほど高くなかったのかと。快適性といえば、2サイクルエンジンの騒音はリヤに配置された上、ソフトトップを上げていると「ほとんど気にならない」とのコメントが散見できました。
エンジンは14馬力と排気量なりでしたが、350kgしかない車重のおかげで最高速は90km/h出ていたそうで、日常のアシとしては十分以上だったのではないでしょうか。また、ミッションは前進3速、後退1速とコンベンショナルなもので、10インチのタイヤと相まってそこそこスポーティな走りもできたかもしれません。
全長2870mm程度で、フィアット500(ベスパ400にぶつけてきたのか同じく1957年デビュー)より100mm以上短く、のちに出てくるミニに比べても200mmは小さいマイクロサイズ。
また、ベスパらしいのは2スト用オイルをタンクに入れておけば、常に2%という適量をガソリンと混ぜてくれる機構だったこと。当時はオーナー自らが計量して混合させるエンジンが多かったようで、この点でもウケがよかったようです。
2%という割合も、他社に比べ半分程度だったこともあり、発売当初はだいぶ疑われた様子。ですが、これまたピアッジオのテクニカルアドバンテージで、実際2%でなんら問題はなかったそうです。もっとも、このオイルタンクが漏れるという持病は最後まで改善されなかったとか(笑)。
結局、売れ行きはそこそこ好調だったものの、生産台数は3万台あまりで終了。1960年代にはマイクロカーブームは終わっていたということでしょうか。
なお、現存車両が少ない理由は(ACMAを研究している史家によると)、前述のオイルタンクからの漏れが頻繁に起きたことや、ベスパ独特のギヤボックスが(オイルをチェックしていないと)焼き付きやすいことが原因で、多くのユーザーが(もともと安いクルマだったから)修理せずに廃棄してしまったからだそうです。
ベスパ400は、少ないながらもオークションに出てきた場合は1万5000~2万ドル(約220~300万円)あたりが相場。レアなマイクロカーとしては安くもなく、高くもなく(笑)。とはいえ、スタイリングの可愛さからか、しっかりレストアされた個体が少なくないとのこと。ベスパのマニアでなくとも、なんだか欲しくなってくる不思議なベスパ400です。