安いだけじゃない!
安全性でもメリットがある
また、リン酸リチウムイオンバッテリーは安全性に優れているといわれている。それはバッテリーの結晶構造が強固なため、熱安定性が高いからだ。このバッテリーならば、一部のBEVモデルで問題視されているバッテリーの熱暴走や発火が起こりにくいといえる。
安全性への自信からか、BYDはバッテリーに直接釘を刺す「釘刺し実験」の様子をホームページで公開している。この実験で三元系リチウムイオンバッテリーは発火や爆発をしたが、リン酸リチウムイオンバッテリーであるBYDのブレードバッテリーは熱暴走や火災を起こさなかった。
もちろん、安全に絶対はない。ただ、他社とは異なる材料のバッテリーを用いることで、BYDが安全性に自信をもっていることは事実だろう。
エネルギー密度はどうやって解決した?
ここまで、三元系リチウムイオンバッテリーとリン酸リチウムイオンバッテリーのメリットやデメリットを紹介してきた。安全性やコストの面でBYDがリン酸リチウムイオンバッテリーを採用しているのは理解してもらえたと思うが、BEVとしての競争力に関わってくる航続距離、もといバッテリーのエネルギー密度への問題はどうしているのだろうか?
じつはこの問題への対策こそが、「ブレードバッテリー」に隠されている。じつはBYDはバッテリーの構造をシンプルにして、効率的にバッテリーセルを搭載する構造としている。バッテリーを分解すると、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーセルを刀(ブレード)のように薄く長い形状にして、効率的に敷き詰めていることがわかる。ブレードバッテリーと呼ばれている由来はこの形状にある。
通常、三元系リチウムイオンバッテリーでは、バッテリーセル、そのバッテリーセルをいくつかまとめた(まとめる数はメーカーによって異なる)バッテリーモジュール、そしてそのモジュールを1台のクルマに搭載する形までまとめたバッテリーパックという3つの構成でバッテリーは作られている。しかし、ブレードバッテリーは安全性の高いリン酸リチウムイオンバッテリーを採用しているからこそ、モジュールなしで軽量コンパクトにバッテリーパックを構成している。
効率的に多くのバッテリーを敷き詰めることにより、リン酸リチウムイオンバッテリーのエネルギー密度という課題を克服したのだ。
まだまだBEVは成長が著しい。BYDのブレードバッテリーはほかとは異なる先進的な技術としてインパクトを与えたのは事実だが、今後の各社のバッテリーに関する技術開発はまだまだ進んでいく。まだ、何が王道で何が正解かわからない。EVの肝となるバッテリーの進化に、引き続き注目したいところだ。