大手事業者に残ってリスク回避がいまどきのタクシー運転士
昔はタクシーとして使うとはとても思えないような超高級車をタクシーとして使う個人タクシー運転士がいたが、最近の傾向では、数十年使い込んだような車両の個人タクシーも見かけることが多くなり、明らかに昔のような羽振りのよさはなくなっている。
そもそも過去には、夜になったら商売をはじめ、深夜にロング(長距離利用)客を片っ端から乗せ、明け方には営業を終了するという短時間集中営業で高収益なのが個人タクシーのうまみとされていたが、いまでは朝から駅の乗り場につけて短い距離の利用を繰り返し乗せていたり、一晩中タクシーを走らせた上で朝7時ぐらいまで繁華街で飲み明かした人などを粘って狙っているところも目立って見かけるようになり、大変そうなのが伝わってきている。
新型コロナウイルス感染拡大を経て、いまや全国の夜の街の表情は激変している。「街飲み」という習慣の減少だけではなく、企業接待の減少などもあり、タクシーでも「深夜であってもなかなかドカーンとは稼げない」というのである。「季節限定ともいえますが、今年の酷暑は異常でした。ここまで暑くなると夜に外で飲む人も少ないようで、繁華街もひっそりしていました。若い人はタクシーに乗って帰る人より始発電車まで時間をつぶして電車で帰る人が多いのであまり期待できません」とはあるタクシー運転士。
個人タクシー運転士デビューに関しては、個人タクシー協会への加盟や車両購入なども含めて莫大な初期コストが必要となる。そのため、デビュー当初は新車を買うことはできず、タクシー車両として使っていた中古車を購入してスタートすることも珍しくないようだ。中古車両で開業したとしても数百万円は軽く超える額が初期投資に必要となるとも聞いたことがある。そのため、組合へは加入せずに完全な個人タクシーとして営業する人もいまでは珍しくなくなっている。
組合への加入は、任意保険に該当する共済への加入や、組合からの配車要請によりお客を乗せることができるなど、それ相当にメリットがあるとされるが、近年では組合加盟料やその後に払う加盟料に見合ったメリットが享受できないと判断する運転士もいて、真の一匹狼での個人タクシーの運行というものも目立ってきている。
たとえば同じ高級セダンをタクシー車両として使う運転士同士でグループを作り、そのグループでロング客やひんぱんに利用してくれる「優良顧客」を囲い込み、独自ネットワークで優良顧客をシェアするといった動きも目立つと聞いたことがある。
高収益が期待できるということは、法人タクシーに比べればそれだけリスクも高くなる。法人タクシーで事故を起こしても、もちろん運転士の違反行為などについては自己責任となるが、車両修理費や相手方への補償(金銭的なもののほか、その示談交渉なども含める)などはタクシー会社負担となる(修理費用の一部負担など二次的に運転士が負担することがあるとも聞いている)。また、利用客からのクレームも法人タクシーならば運行管理者が対応することになるが、個人タクシーでは本人が対応することになる。
そして、「そもそも論」としては個人タクシーとしての新規開業の難しさ、つまり認可がおりにくいことが現状となっている。新規開業ではなく、その権利の贈与や譲渡などといった形で、新たな個人タクシー運転士になるケースもある。
いまどきの稼ぎがよく、優良運転士として日々乗務するスーパータクシー運転士は、大手事業者に残り続けるケースが圧倒的に多いようである。大手事業者ならばロング客が多く見込める、駅や公共施設以外の都心のインテリジェンスビルや大病院などに専用乗り場を開設していることも多い。優良運転士ならばそのような場所への出入りも許される。
また、いまどきはタクシー配車アプリサービスに加盟しているのが当たり前。このアプリ配車でも、乗車地から目的地まで距離のあるお客は優良運転士の車両へ優先配車される機能になっていると、あるアプリ配車サービスを使っている事業者の運転士から聞いたことがある。いまは個人タクシーの一部もアプリ配車サービスに加盟しているケースが多い。最近ではキャッシュレス決済が主流になりつつあるので、各種決済機の導入コストや加盟料なども個人タクシーでは負担がきつくなってきているように思われる。
タクシーを利用する人は全体でも減少傾向にあるものの、スマホアプリによる配車サービスが新規も含め潜在利用をあぶりだしている。運転士の経験や勘など「職人気質」に頼る傾向の強かったタクシー業界だが、デジタルツールが普及してきたいまでは、どこまで最新機器を導入できるかが、そして経験を積まなくても機器活用で新人でもすぐベテラン並みに稼げ、ベテランは経験や勘に加え、デジタル機器を活用することでさらに稼ぐようになってきている。
すべてを否定するわけではないが、個人タクシーが業界での「最高位」とは意識しない運転士が増えてきていることは間違いないようである。