映画「007」の劇中に登場したスーパーカーは結局市販されず! 不景気で幻と消えたが爪痕は残した「ジャガーC-X75」 (2/2ページ)

販売が実現しなかったのが残念でならないC-X75

 バッテリーのみで走行する場合のC-X75の最大航続距離は110km。また、マイクロガスタービンはディーゼル燃料のほかにバイオ燃料、圧縮天然ガス、液体石油ガスなど、さまざまな燃料でそれを作動させることが可能だった。

 ここから電力の供給を受けるリチウムイオンバッテリーの容量は15kWhで、重量は185kg。優れた環境性能に加えて、330km/hの最高速と2.9秒の0-100km/h加速を可能にする、以上が未来のジャガー製スポーツカー、C-X75の概要である。

 パリサロンでのコンセプトカーの発表から約8カ月、ジャガーはC-X75の限定生産計画を発表する。生産台数は250台とされ、それはやはりウイリアムズ・アドバンスド・エンジニアリングとの提携によって生み出されるものとされていた。当時のジャガーは今後5年間で40にも及ぶ新製品を市場に導入するという、50億ポンドを投じた投資計画を推進しており、C-X75の限定生産ももちろんその一環に含まれていたのだ。

 生産型では例のマイクロタービンは搭載されず、その代わりに1.6リッターのツインチャージャー付き直列4気筒ガソリンエンジンをレンジエクステンダーとして搭載。エレクトリックモーターも前後アクスルに各々1基という2モーター形式に設計変更されたが、結局、終わりの見えない世界的な不景気によって、その生産計画は2012年末に中止とされることが発表された。

 だがC-X75はその後のジャガー車に大きな影響を与え、とくにそのデザインキューはFタイプやIペースに受け継がれた。

 ジャガーがC-X75の生産化のために製作したガソリンエンジンを搭載するプロトタイプは5台とされ、そのうち3台はオークションで売却、1台はジャガーミュージアムに、そして残りの1台は例の「007スペクター」の劇用車として提供されたという。

 ジャガーはまたそれとは別に劇用に7台(諸説あり)のC-X75を製作するが、こちらはボディデザインこそオリジナルのC-X75に忠実だが、そのメカニズムはV型8気筒エンジンの搭載など、オリジナルモデルとの直接の関連性はなかった。

 仮に世界的な不況の影響を受けずに、C-X75が予定どおりに限定販売されていたとしたら、それは間違いなくカーマニアにとってコレクターズアイテムのひとつとなったことだろう。


山崎元裕 YAMAZAKI MOTOHIRO

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 /WCOTY(世界カーオブザイヤー)選考委員/ボッシュ・CDR(クラッシュ・データー・リトリーバル)

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ
趣味
突然思いついて出かける「乗り鉄」
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