ありそうでないボディサイズは日本市場にピッタリ
筆者がこのキャスパーを初めて見たのは、2023年1月に韓国のソウル市を訪れたときのこと。街なかで見かけるこのクルマはなんだろうと思うなか、江南地区にあるヒョンデのショールームを訪れ実車を触ることができた。当時はICEのみであったが、事情通から「BEVも用意するようだ」と聞いていたので、日本市場を相当意識しているなと思っていたら、釜山国際モビリティショーでキャスパーEV(インスター)が出品され、さらに最近では韓国メディアがキャスパーEVについて、日本をはじめ54カ国への海外展開を検討していると報じていた。
そもそもキャスパーは開発初期段階では日本の軽自動車規格も意識し、日本へ向けて軽自動車扱いにして商品展開しようと検討を行ったようだとの話も聞いたことがある(噂程度の話だが)。同じタイミングで日本国内におけるヒョンデ車の販売が、オンラインのみからリアルディーラーも展開されるようになるのではとの情報も入ってきた。量販が期待できるキャスパーEVを販売するならば、リアル店舗はやはり必要となるだろう。可能性としては低いがICE車となる標準のキャスパーも日本で展開しようとすればなおさらかもしれない。
中国BYDオート(比亜迪汽車)の日本法人であるBYDオート・ジャパンが、2024年8月単月でのBYD車の総登録台数が298台になったというリリースを出したが、JAIA(日本自動車輸入組合)統計による、2024年8月単月でのヒョンデブランド車の総販売台数46台とBYDと差がついたのも、リアル店舗の有無という部分は大きいのではないかといわざるを得ないだろう。
日本では軽自動車規格BEVとなる日産サクラの販売が好調に推移している。ただ、航続距離などの制約も大きく、ディーラーも「街乗り車と考えてほしい」といったアプローチで販売促進を行っている。サクラの少し格上モデルといえば日本車では存在しなく、BYDのドルフィンとなるだろう。ドルフィンとなると幅が広く3ナンバー車になってしまうので、「もう少しお手軽なBEVはないのか」ともなりやすい。
そこでキャスパーEVの出番である。そもそもICEでの韓国の軽自動車規格は日本のそれよりボディサイズや排気量がひとまわり大きいのだが、実際に運転してみるとその差が大きい。大昔にスズキ・アルトがベースともいわれた韓国・大宇(デーウ/現GMコリア)マティスを日本国内で運転したことがあるが、「なるほど日本の軽自動車よりもひとまわり大きいだけで、ずいぶんと安定してラクだな」と思ったのをいまでも覚えている。キャスパーEVは1回の充電で350km走るというのだから、1回の充電で180kmしか走らないサクラよりは使用範囲に広がりをみせそうである。
気になる価格はキャスパーEVが韓国で3149万3670ウォン(約335万円)となっている。日産サクラのGが308万2200円、BYDドルフィンのロングレンジではないモデルが363万円(充電1回の航続距離は400km)なので、軽自動車とまではいかないものの、ふた昔前ぐらいの日系コンパクトハッチバック車程度のボディサイズは、登録車ながら5ナンバーBEVとなるので、あとは価格設定次第だが、日本国内でのインパクトはかなり大きいものとなりそうである。
本来ならば日本メーカーからキャスパーEVのようなモデルが登場してもおかしくないのだが、世界的にBEV販売が低迷傾向になっているいまでは、なかなか新規に、そしてBEVへの本腰入れがこれからという日本メーカーに市場投入を期待するのは無理な注文のようにも見える。
そうはいっても、BEVの普及がこれからであり、そして新車販売市場規模も大きい日本市場は、外資ブランドから見れば、日本メーカーのBEVが少ないいまを考えても、BEVの投入は魅力が大きいようにも見える。やはりBEVのラインアップ拡大はしばらく外資頼みになってしまうのだろうか。