ロードカーでもその才能を遺憾なく発揮
その一方で、マレーはかつてレーシングドライバーだったクリス・クラフトとともにライトカーカンパニーを設立。1992年にはヤマハのFZR1000用エンジンを搭載したフォーミュラーカータイプのライトウエイトスポーツカー、「ロケット」を発表している。
マレーはマクラーレンに2004年まで在籍するが、その後はさまざまなクライアントのために自らの才能を提供し続けた。2006年のブリティッシュモーターショーで発表された「キャパロT1」などはその代表的な例。
そして2007年には自身の会社である「ゴードン・マレー・デザイン」を設立。2011年には日本の東レとの共同プロジェクトによって電気自動車の「TEEWAVE AR1」を開発したほか、2013年にはやはりコンパクトなヤマハのコンセプトカー「MOTIV」を東京モーターショーで披露。2015年の同ショーではやはりヤマハからの依頼によるスポーツカーコンセプトカー「SPORTS Ride Concept」を発表するなど、その活動はじつに積極的なものだった。
さらに2015年にはTVRとの契約を締結。2019年から販売が開始された「グリフィス」は、マレーのエンジニアリングによるモデルである。
それに先立ってマレーの会社は新たに「ゴードン・マレー・オートモーティブ(GMA)」の社名を掲げることになった。マレーが社名をGMAとした理由はもちろん、自らの名を掲げたロードカーを生み出すことで、それはあのマクラーレンF1の、そしてブラバムのBT46Bから遺伝子を受け継いだ究極のスーパーカーにほかならなかった。
最初に触れたT.50は、ミッドにコスワース製の4リッター V型12気筒DOHC自然吸気エンジンを663馬力の最高出力で搭載するもの。最先端のエアロダイナミクスを実現するため6種類のエアロモードが設定されているほか、ブラバムBT46B譲りのファンも装備され、より大きなダウンフォースを得ることに貢献している。
生産は100台の限定生産で行われる予定だったが、発表から48時間でそのオーダーリストは完全に埋まってしまう。いまさらながらにゴードン・マレーという人物のエンジニアとしての才能、そしてブランド・バリューが高く評価されていることが証明された。
2021年にはこのT.50をベースとしたサーキット走行専用モデルの「T.50sニキ・ラウダ」も発表されたが、こちらはエンジンが710馬力にまで強化されるほか、さらにエアロダイナミクスと軽量化をストイックに追求した仕様。生産台数は25台が予定されている。