レースで勝つために117クーペのエンジンを搭載
■GTのホットバージョン「GTR」が生まれた経緯
トヨタ「1600GT」は、専用開発の1600cc直列4気筒DOHCエンジンの高出力をアドバンテージに一気にレースの主導権を握るようになり、「ベレットGT」の戦闘力では歯が立たない状況になってしまいました。
しかし、そのときいすゞの関連会社の「鈴木鈑金」が、レース用にと117クーペの「G161W型」DOHCエンジンを搭載した車両を密かに製作していました。その車両は「ベレットGTX」と命名されて、いすゞワークスからレースに出場。1600GTを10馬力上まわる120馬力を発するエンジンによりパワーのビハインドを埋め、見事に勝利を勝ち取ります。
これでGTカーとしての面目を取り戻したベレットは、その市販バージョンである「ベレットGTR」をリリースすることになります。
このときのエピソードとして、フラッグシップであった「117クーペ」と同じエンジンを格下のベレットに搭載するのはいかがなものかという反対意見が出て、一時計画が頓挫しかけたそうです。
「ベレットGTR」は120馬力を発する「G161W型」DOHCエンジンの搭載に加え、バネレートをアップさせたサスペンション、ブレーキブースターの追加と走りのポテンシャルをアップさせています。
外観では、「GTR」のアイコンにもなっているフォグランプをグリル下部に追加。黒いボンネットとサイドのストライプによるツートンのカラーがオプションで用意されました。ちなみに現存する車両の多くはこのツートン仕様です。
1971年のマイナーチェンジで小変更が加えられるとともに、名称が「GT タイプR」へと変更されました。
「GTX」で勝利を挙げた勢いもあり、レースでの活躍を期待された「GTR」でしたが、そのときに日産ワークスが「スカイライン2000GT-R」を投入。2000ccのDOHCエンジンは160馬力を誇り、1600cc勢は後塵を排することになってしまいます。
その後、1973年にはすべての「ベレット」シリーズが生産終了を迎え、10年の歴史を終えます。
販売台数は、ベースとなったGTが1万7000台強なのに対して、「GTR」と「GT タイプR」は合わせても1400台程度しかないため、かなり希少な存在となっています。
■「R」が示す意味は?
ライバル関係にあったスカイライン2000GT-Rは、発売の前年に東京モーターショーに出展された「スカイラインGTレーシング仕様」が元になっており、そのままGTにレーシングの「R」を加えて「GT-R」となっています。
一方のベレットの場合は、明確にその由来を説明する文献は見当たらず、不明というのが実状です。もととなったレース車両の「ベレット1600GTX」の市販版として「GTR」の名が与えられたという経緯のため、一概にレーシングの「R」とはいい切れないところがあります。ちなみにこの時代は未来を表す「X」をプロトタイプ車両に与えるのが流行っており、それを踏まえると、GTXは企画段階でGTRのプロトタイプとしての立ち位置だったのかもしれないです。
また、後期モデルは「GTR」から「GT typeR」と改められましたが、その名称変更の理由も定かではありません。同時期にライバル関係にあった「スカイラインGT-R」との区別化を図ったのかもしれません。
10年のモデルライフというのはけっして短命とはいえませんが、1974年には後継の「ジェミニ」にバトンタッチしてしまったため、「ベレット」としては一代限りという、惜しい足跡を残す結果となってしまいました。
それでも当時の印象が強かったせいか、時代の変遷のなかでけっして名が消えることはなく、旧車ブームのいまではあらためて注目度が上がっています。
希少で最高グレードの「GTR(またはGT タイプR)」は中古車価格が高騰してしまっていますが、「GT」なら200万円台のプライスが付く車両もあるようです。
気になっているという人は検索してみてください。