1980年代の走り屋たちに突如として流行ったハイフラッシャー
■ウインカーの点滅間隔の根拠は?
ウインカーの点滅間隔が「毎分60回以上120回以下」と定められていることは分かりましたが、ではなぜその間隔に決められたのでしょうか?
これは保安基準に明記されているわけではなく諸説でしかありませんが、人間の心拍数に関係しているようです。保安基準では60〜120回と範囲を定めていますが、実際の市販車で採用されているのは70〜90回が中心となるようです。
この間隔、勘のいい人は数値を見てすぐにピンと来たかもしれませんが、人間が少し緊張したときの心拍数に近いんです。
ウインカーは右左折や進路変更時に周囲の車両に注意を促すことが主な役割です。そのときに、注意を引くのにちょうど良い点滅間隔として、この数値が選ばれたというのが有力な説となっています。
■なぜ早いウインカーがあるのか?
ウインカーが点滅するのは、「ウインカーリレー」という、自動で一定の間隔で通電をON/OFFするスイッチ回路を備えた装置によるものです。ウインカーのシステム全体がメーカー純正の状態であれば、めったなことでは保安基準の規定から外れてしまうことはありません。
しかし、たとえばウインカーの電球が1カ所球切れを起こしてしまうと、回路全体の抵抗値が低くなり、ウインカーリレーを通る電流が大きくなるためスイッチングの間隔が早くなってしまうことがあります。この現象は白熱電球を前提に設計されたシステム特有のもので、いまのLED電球を使ったシステムではほぼ起こりません。これは電球の違いではなく、リレーがアナログな接点式から電子式になったためです。
ちなみに、白熱電球で設計されたシステムで、DIYで社外のLED電球に交換するのが一時期流行りましたが、これも抵抗値が元より低くなって点滅が速くなってしまうという現象がよく起こっていました。
また、1980年代あたりには、上記のように意図せずウインカーの点滅が早まってしまうのではなく、わざと点滅を速くするのが流行った時期がありました。どこが始めたかについては定かではありませんが、当時の「走り屋」と呼ばれた公道レーサーたちの間で流行し、次第にほかのクルマ好きの間にも浸透していったという経緯でした。
初期の頃はウインカーリレーをワット数の多い車両のものに交換するという手法で点滅を早めていましたが、流行の兆しが見え出したころには専用の社外リレーが登場します。巷では「ハイフラッシャー」を縮めて「ハイフラ」と呼ばれていました。
なぜ走り屋たちが早い点滅を好んだかという点については諸説ありますが、一般のクルマを避けながら車線変更を頻繁に行うような走り方をするときには、規定通りの点滅では間に合わないことから、点滅を早めたのではないかという説が有力です。ピーク時は走り屋の過半数がハイフラを導入していた印象でしたが、改造の取り締まり強化の荒波を乗り切れず、いつの間にか姿を消してしまいました。
いまではちょっとヤンチャなクルマ乗りでも、流行ってもいないことでリスクを冒すようなことはしない風潮なので、当時のスタイルにこだわりを強く持っている人でない限り、規定を明らかに外れるような早い間隔のウインカーにすることはないでしょう。
当時を知るものとしては少し寂しい気もちもありますが、もはや絶滅危惧種に指定されている状態ですね。もし街なかで見掛けたら、温かい目で見送ろうと思います。