600馬力が2000馬力に変身!? 本気になれば3倍4倍当たり前ってマジか! クルマのエンジンチューニングの世界がヤバすぎた (2/2ページ)
古いエンジンでもいまだ進化しているのがチューニング
2)スズキ・アルトワークス(4&5代目)搭載の「K6A」エンジン
スズキの最新高性能ターボエンジンというと「R06A」ですが、ここではチューニング実績の多さで、ひと世代前の「K6A」を取り上げます。
K6Aは1994年から2018年までの長きにわたり、スズキの軽自動車向け中核として多くの車種に搭載されてきた名ユニットです。型式は同じですが、自然吸気の37馬力タイプからインタークーラーターボの64馬力モデルまで多くの種類があります。排気量658ccの3気筒DOHCという構成が基本で、最高性能のユニットは64馬力/6500rpm、11.0kg·m/3500rpmというスペック。これは現在でも一線級の性能です。
ちなみにリッター換算馬力は97.2馬力/リッターとなり、まあそれなりといったレベルですが、これはチューニングベースとして見たときには伸びしろが多くあるといえるでしょう。
<ライト>
K6Aのライトチューンで見込めるパワーは80〜90馬力という感じでしょうか。内容は先述のVR38DETTのものとほぼ同じで吸排気系の交換とECUの書き換えによるブーストアップ。費用は30万〜70万円くらいでしょうか。軽自動車なのでパーツ代が抑えられます。
<ガチ>
ガチのフルチューンでは、150〜180馬力くらいは、ある程度の耐久性を残したままで出せるでしょう。数値自体が少ないのであまり上がっていないように感じるかもしれませんが、リッター換算馬力は270馬力/リッターを越えますので、かなり絞り出していると思います。
こちらも内容はVR38DETTの例とほぼ同じです。排気量と気筒数は少ないですが、やることは変わりません。費用は200万〜350万円といったところでしょうか。
<アルティメイト>
究極のチューニングで得られるパワーは……わかりません。実際の例が見つかりませんでした。プエルトリコ辺りの草ドラッグなら、日本ドメスティックの軽規格にこだわってクレイジーなチューニングを行っている可能性がありますが、日本ではそこまでの情熱を傾けている例は見付けられません。
見付けられた範囲での最高出力は300馬力というものでしたが、これは830ccに排気量アップされたユニットでNosを噴射したものによる結果でした。あくまで計算上ではありますが、658ccに換算してみると237馬力となります。
ちなみにこの830cc仕様のK6Aを搭載している車両はサーキットアタックを念頭に置いたものだそうなので、ドラッグレース向けに仕様変更すれば、658ccのままで300馬力の大台に届くかもしれません。
3)日産L型エンジン
ラストは自然吸気で、しかも50年以上前の設計という、日産L型エンジンの例を見ていきましょう。
L型エンジンは当初2リッターのみでしたが、北米など海外向けとして排気量を徐々に拡大され、最終的には2.8リッターに至りました。吸気側の燃料供給装置や排気系の構造、点火装置の進化など、主に厳しい排気ガス規制に対応する目的で補機類は大きく変更されましたが、シリンダーブロックやシリンダーヘッド、ピストン、コンロッド、クランク、動弁系など主な部分はほぼ変えられずに使われ続けました。
このことがいいほうに効いて、レースやチューニングのベースエンジンとしてもてはやされ、全体の一角を占めるほどに多くの実例を遺してきました。
とくにストリートから本格コースでの「ゼロヨン」ことドラッグレースのチューニングベースエンジンとしてさまざまなチューニングが行われたことでどんどんレベルが上がり、最終的にはその辺のDOHCエンジンを凌ぐレベルにまで到達しました。
L型エンジンの基本構成は直列6気筒SOHC12バルブという、いかにも旧式然としたもので、外観もなんとなく鈍くさい印象のため、とても高出力が出せるとは思えませんが、チューナー同士の切磋琢磨の結果、誰もが目を見張る成果を生み出しました。
素の状態の性能は、2.0リッターの「L20」で最高130馬力、最大排気量の「L28」で155馬力となっています。リッター換算馬力は「L20」のほうが高く、65馬力/リッターという数値です。50年前のエンジンとすれば妥当かと思います。
<ライト>
ベースとなる直列6気筒エンジンには、ベースグレードで小さなキャブレターがひとつしか付いていませんでした。スポーツグレードでも少し口径が大きいキャブレターがふたつに増えた程度で、当時は目一杯だったかもしれませんが、現代の目で見ると出力を絞り出すにはとても足りているとはいえない構成です。
それに対する方策として用いられたのが、当時レースの場で広まりつつあったスポーツキャブレターです。ノーマルキャブレター換算で3〜6倍にも吸気面積が拡大できるため、競技の場面では主力の武器となっていました。それをストリートにもち込んだのが、当時カスタムシーンで大流行した「ソレ・タコ・デュアル」です。
大径のスポーツキャブレターの代表製品「ソレックス」と、排気の効率をアップさせるという触れ込みの「タコ足(集合管)」、そして排気サウンドがアップグレードできる「デュアルマフラー」という、いってみればカスタムの「三種の神器」というアイテムでした。
実際のデータが残っていないので数値は不明ですが、パワーアップよりも吸排気サウンドの変化による効能が大きく、「雰囲気はレーシングマシン」という気分に浸れることが支持されていたようです。
カムなどエンジンの中身が低回転でモッサリまわる設計なので、エンジンに手を入れずに吸排気だけ抜けをよくしてもパワーに繋げられないでしょう。推測になりますが、150馬力も出ていれば上等、といった感じではないでしょうか。
<ガチ>
さて、L型エンジンのチューニングはここからが真骨頂です。なにせもとのユニットの性能が65馬力/リッターというレベルなので伸びしろしかありません。TVの番組で、女性芸人を美形モデルのように生まれ変わらせる企画がありましたが、あれくらいの驚きを伴う劇的な変化が起こせます。
実例をもとにした具体的な数値を示すと、330〜380馬力が狙えます。先の二例がターボエンジンだったので、この数字が少し肩透かしと感じた人がいるかもしれませんが、これは50年以上前の設計の自然吸気エンジンでの結果です。
いい忘れていましたが、L型エンジンのチューニングメニューとして3.2リッターへの排気量アップが定番となっており、専門メーカーやショップからチューニングキットとしていまも販売されています。
排気量を3.2リッターで計算しても、380馬力でのリッター換算馬力は118馬力/リッターとなります。この数値は、現在の(市販車用)自然吸気エンジンに置き換えても上位に食い込めるでしょう。ひと昔前までは100馬力/リッターが高性能エンジンのボーダーラインとされていましたので、そのラインは余裕で超えています。
そのチューニングの内容をザッと記すと、まずボアピッチギリギリに収まるサイズの軽量な鍛造ピストンを用いて、シリンダーブロックを拡大ボーリング。フルカウンタークランクと、軽量高剛性なコンロッドを組み合わせ、シリンダーヘッドは燃焼室形状を変更、300度以上の作用角のカムにビッグバルブなどなどを組み合わせます。
忘れてはいけないのが吸排気系です。1気筒あたり50φという大口径のスポーツキャブレターと、48φのタコ足、60φのストレート形状のマフラーを組み合わせ、エンジンの求める吸排気容量を確保します。これに強化された点火系を組み合わせることで、現代の高性能なDOHCエンジンに迫る出力を得ています。
<アルティメイト>
私が知る限り、最高の出力を発揮した記録は3.3リッターのフルチューンで400馬力オーバーというものです。リッター換算馬力は121馬力/リッターまで到達。市販車の自然吸気エンジンで最高クラスが127馬力ほどなので、何度もいいますが、50年以上前の設計の2バルブのエンジンが肉薄しているということは驚異でしょう。
ちなみに上記のエンジンは一発勝負の「壊れてもいい」的な仕様ではありません。ドラッグレースを予選から何本も走って、トラブルがなければそれを何シーズンか続けられる耐久性をもった仕様なので、まだマージンは残っています。……とはいっても自然吸気なので、ターボエンジンのように大幅な上乗せは期待できないでしょう。
今回は三種をピックアップして紹介しましたが、チューニングで豹変するエンジンはまだまだあります。機会があれば第二弾をお送りするかもしれません。
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