いまだカリフォルニア以外でEVを見かけることは少ない
大昔には沿岸部はフォード(アメリカンブランドのなかではより先進性があると見られていた)、内陸部はGMが強みを見せていたともいわれている。フォードより遅くまでOHCではなくOHVエンジン搭載車をGMが多くラインアップしていたのも、沿岸部や都市部より地方部では自家整備が当たり前のようになっており、高校などで自動車整備を勉強するときには、教材となる車両が古いOHV車だったので、そのまま地方部ではGMが強みを見せていたといわれている。
トヨタについてはコロナ禍前からすでに、全米の州都や中核都市ではプリウスやカムリのHEV(ハイブリッド車)も目立っていた。感度が良く一定以上の所得のある自然派ともいわれる人たちの間では、とくにプリウスに乗るのがステイタスとなっていた。
HEVがファッション感覚優先で乗られる傾向があったのだが、アメリカのなかでもとくに自動車消費市場として大きいカリフォルニアでは全米でも目立ってガソリンの高値安定傾向が続くなか、ガソリン代負担を減らしたいと考える人などがHEVに殺到するようになった。そして、そもそもHEVではトヨタはリーディングカンパニーなのでよく売れるようになり、カリフォルニアの傾向が全米の主要都市に伝わったものと筆者は考えている。
つまり、当初から日本車を中心とした外資系ブランドの販売ネットワークの弱いところで、アメリカンブランド車はよく売れていた(選択肢がほぼなかったともいえる)。しかも、地方部でアメリカ車といえば大排気量V8エンジンを搭載する(最近はダウンサイズが進んでいるが)大型SUVか大型ピックアップトラックが定番となるので、そもそものアメリカ車ユーザーにBEVが馴染みにくいという部分も、今回の投資を手控えたり新型車開発の撤回などがあるのではないかと考えている。前述したデトロイトでのBEVの話でも、アメリカンブランドの聖地のような場所なので日本を含む外資系ブランドディーラーより、アメリカンブランドの店舗数が多いことも当然あるだろう。
また、地元ではガソリン価格が目立って安く見えるのだが、これはアメリカンブランドが何らかのアシストを行っているともいわれているので、新車販売においてもこのような傾向があるのかもしれない。
BEVがよく売れるカリフォルニアでは、アメリカでありながら「なぜアメリカ車を選ぶの?」といった疑問をもたれる傾向がある。再販価値がとくに高いともいえるクロスオーバーSUVでICEであっても、燃費性能が高く、品質や耐久性能も高い日本車に比べれば著しく再販価値が低くなることも大きいようである。
アメリカンブランドも主要市場をカリフォルニアに照準を合わせて自社でBEVをラインアップしたのだろうが、そもそもアメリカンブランド車が選ばれにくい市場でもあったので、販売低迷傾向となったという側面もあるのではないかと筆者は考えている。広大な国土をもち、ひと言で語ることのできない消費傾向の違いなど、世界的な動きよりは自国内の事情のほうが大きかったのかもしれない。
だからといってBEVをまったくラインアップさせないというわけにもいかないだろう。アメリカンブランド車を嗜好する人たちの認知度などを見ながら、自分たちの得意カテゴリーはどこかを見失わずに消費者ニーズに合わせてラインアップさせていけばいいだけの話で、GMやフォードはBEV普及についてスピードダウンを表明したに過ぎないと筆者は考えている。