壊れるのは仕方なし! 課題はメンテナンスの頻度にあり
そして筆者は、フリーランスの中古車記者としてさまざまなデルタオーナーに取材としてのヒアリングを行ったが、みなさん口をそろえていっていたのは、おおむね下記のようなニュアンスであった。
「そりゃイタリア車だし、しかも古いイタリア車だから『まったく壊れない』なんてことはないですよ。でもいま生き残っているデルタは、一度ちゃんと直したうえで予防メンテも怠らないようにすれば、そんなにぶち壊れるモノでもないですね」
そのとおりであると、筆者も思う。初期のモデルからエボ1までは別として、エボルツィオーネ2以降の世代であれば、デルタとは「整備しておけば、さほど壊れないクルマ」なのだ。ま、たまには少し壊れるはずだが。
ではいったいなぜ、「1年のうち3分の2は修理工場に入っている」という伝説または事実が生まれたのだろうか?
結局は「物事の端境期に中古車を購入した人の個体が派手にぶち壊れまくったことで、伝説は生まれた」ということなのだと推測する。
トヨタのカローラや昔のランドクルーザーみたいなクルマであれば、極端な話、新車時から5年ぐらいノーメンテでもたぶっ壊れないだろう。
だが、ちょっと昔のイタリア車というのは、よくいえば繊細で、ハッキリいってしまえばいろいろな精度も低かった。そのため、ちゃんと手入れしてあげないとすぐ壊れるし、ランチア・テーマ8.32みたいなクルマは、ちゃんと手入れしてるのになぜか壊れたりもした。
そんなイタリア車でも、替えるべき部品を適切に替えておけばそう簡単には壊れないのだが(※テーマ8.32を除く)、新車が中古車となっていく過程ではどうしても「ほとんどメンテなんかしない」という、筋の悪い人が所有者となるケースも多い。
で、そういった筋の悪い人に数年間所有されたデルタは必然的に、もともとの虚弱体質がよりいっそう虚弱化し、さらには「血管に悪玉コレステロールが詰まりまくってる」みたいな状態にもなる。となれば、その個体を、ピカピカな外観に引かれて次に買った人が「買ったはいいけど、1年のうち半分以上は工場に入ってる」という事態に陥ったり、「次から次へと壊れまくるんで、半年で手放した」みたいな話になるのも、ある意味当たり前ではある。それゆえ“伝説”が生まれたのだ。
だが、ランチア・デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネ2においては……いやデルタのエボ2に限らず、悪名高きシトロエン XMなどにおいても、その種の伝説はもはや古い。
たしかにデルタ エボ2もXMも、そしてシトロエン BXも、過去においてはぶち壊れまくった。しかし、そんな地獄を生き延び、メンテナンスに関する有効な知見も十分に蓄積された現在において、しっかり整備され続けている個体は、そう簡単に壊れまくることはない。
事実、筆者の知人はデルタ エボ2でガンガンにサーキットを全開走行しており、悪名高きシトロエン XMを、仕事の足として使っているフリーランスのカメラマンもいる。
素性のいい個体を選ぶ必要は絶対にあるし、整備にはそれなりに手間もカネもかかる。今後はサビの問題も無視できないだろう。が、巷間でいわれているほどのことではないのだ。
今回、編集部からは「デルタの故障伝説をイジる感じで書いてくれ」との依頼だったが、嘘を書くわけにもいかないため、真実を述べさせていただいた。