物理的にブロックして対応
比較的新しい店舗では屋上駐車場を設けたり、屋外車両の屋内スペースへの収納も想定してなのか、広めの整備工場やショールームを確保しているが、それでも事情通は立地なども考慮して「窃盗団は盗みやすい店舗と盗みにくい店舗を見極めている」と話してくれた。
ディーラーだけではなく、個人の被害も含め、高速道路網の整備とともに埼玉県の群馬、栃木、茨城隣接地域で車両窃盗が相次いだことがあった。
事情通は、「たとえば、関越道(関越自動車道)と東北道(東北自動車道)、そして常磐道(常磐自動車道)を結ぶ北関東自動車道や圏央道(首都圏中央連絡自動車道)などが整備されると、車両窃盗後、高速道路に入るとどこへでも素早く逃走できるようになりました。それ以前は窃盗後、新潟港から海外へ出荷していたともいわれていますが、新潟港へのアクセスがよいとのことで、埼玉県でも新潟に近い北部で関越道沿いの地域で車両窃盗が多発したりしていました。それが高速道路網の整備とともに、逃走経路の多様化を招き車両窃盗多発地域が拡大していったようです」と語る。
最近の窃盗団は盗んだあとに隠してあるGPSなどによる追跡でアジトがバレないように、比較的犯行現場から近い場所に盗んだクルマを一旦停めておく傾向があるとも報じられているので、警察の監視システムの進化及び強化などもあり、傾向が変わってきているのかもしれない。
相次いで報じられた窃盗事件を受けて、ある現役セールスマン(ホンダ系以外)に事情通が話を聞いたそうだ。
「群馬県の事件発生はお盆休み直前だったこともあり、展示や試乗車両、お客様からお預かりしている車両などの保管方法を再チェックし、厳重に行うように通達がきました」とセールスマンはまず話してくれた。そこで、そのセールスマンの勤務する店舗の対応をさらに聞いたそうだ。
「まずは毎日閉店時には施錠できる整備工場に車両を収容します。収容しきれない車両についてウチの店では屋上に駐車スペースがあるので、屋上に車両をもっていきます。そして、屋上とつながる坂道の地上出入口付近に積載トラックや低年式の下取り車などを置いてブロックし、さらに店舗敷地への出入口も差しさわりのない車両でブロックして侵入を防ぐようにしております」と語ってくれた。
今回のケースではまずショールームに侵入し、現金や展示車両のカギなどを盗んでいる。このことについては、「ウチの店では警備会社と契約し、閉店時には施錠と同時に警備システムを作動させるようにしております。ただし、弊社全店舗が警備会社と契約しているわけではありません。カギの管理はホームセンターで売っているような、樹脂製のケースに入れて保管しますが、そのケースの置き場はわかりにくいように工夫しております」(セールスマン)
現金の取り扱いについて聞くと、「新車の車両代金については、現金一括払いであっても弊社指定口座へのお振り込みを原則とさせていただいております。それでも現金一括で支払いたいといったケースでは、銀行が開いているときにお預かりしたあと、速やかに入金するようにしております。週末など銀行がやっていないときには店舗責任者が責任を持って管理するようにしております。ですので、店舗内には点検・整備代金としてお預かりした現金程度、多くても数十万円ぐらいしか置かないようにしております」と説明してくれた。
そしてさらに、「効果のほどは定かではないですが、店舗入口に『店内には現金はありません』とおもに窃盗を試みようとする人へ向けてのメッセージを貼っている店舗もあります」(事情通)
話してくれたセールスマンの勤務するディーラーの系列では「盗まれやすい店舗」があったそうだ。「店舗敷地が狭く、おもに地面が砂利となっている屋外スペースに車両を置いている店舗がありました。幸い車両自体を盗まれたことはありませんが、1台のクルマからタイヤ4本だけごっそり外されて盗まれたり、車両の窓を割ってカーナビを盗まれるような事案が過去にはありました」とのこと。
昭和のころには、一部中古車専業店で、夜間無人状態でも、展示車両の購入希望者が自由に見てまわれるように、明るい照明をつけっぱなしにして敷地内へ自由に出入りできるようにしていたのをいまも覚えている。残念ながらいまの日本では、そんなことを間違っても許容できるほど治安状況が良好ではなくなっていることだけは間違いないようだ。