開発時にはロータリーエンジンを搭載する予定だった
当時、マツダは、1967年にロータリーエンジンを搭載するコスモスポーツを世に出していた。翌年には、2代目ファミリアとなるプレストロータリークーペを売り出し、ロータリーエンジン車の拡大をはかっていた。当初のロータリーエンジンは、10A型の1種類で、排気量は491ccだった。これをふたつ繋げて2ローターとし、コスモスポーツやプレストロータリークーペに搭載していたのだ。
なので、10A型の排気量を調整して1ローターで使えば、軽自動車の360ccに適用できなくもない。そのような構想が、シャンテの開発当初にはあった。ところが、監督官庁や業界他社から懸念の声が上がった。
ロータリーエンジンは、三角おむすび型をしたローターが、1回転する間に、三角形の各辺にある燃焼室により3回の燃焼ができる。これに対し、当時軽自動車で多かった2ストロークエンジンは、1回転で1回の燃焼だ。4ストロークであれば、2回転して1回の燃焼しかできない。当然、ロータリーエンジンは燃焼室の排気量が同じ360ccであっても、より大きな馬力を出せることになる。
※写真は2代目ファミリアロータリークーペの10Aエンジン
このため、庶民のクルマとして枠組みが決められた性能に対する制約を、大きく上まわる可能性が出て、懸念が示されたといえる。
そこでエンジンの構想は大きく転換され、シャンテは2ストローク2気筒を採用することになった。
駆動方式はこれまでどおり後輪だが、前後タイヤ間のホイールベースが2m20cmと、R360やキャロルが2m以下であったのに比べて伸ばされ、室内空間を広げたり、直進安定性を高めたりといった利点が生まれた。
今日も、正しい運転姿勢と、それを実現するペダル配置にこだわるマツダだが、ロングホイールベースによる自然なペダル配置は、前輪駆動を採用する当時のほかの軽自動車と比べても、シャンテならではの特徴のひとつといえた。
マツダ独自の軽乗用車は、シャンテまでで一旦途切れ、次に登場するのは、1982年のオートザム・キャロルとなる。