読めるけど……何か違わない? 誤字!? 独自に「漢字の省略」までしてた高速標識の不思議な文字「公団ゴシック」が消えつつある理由 (2/2ページ)

見やすさを優先してデザインされたゆえに必ずしも正しくはない

 それらの結果として「よく見ればこれ、誤字じゃん!」となったりもしたのだが、その分だけ視認性には大いに優れ、また独特の味わいも感じられるフォントにもなった。それゆえ日本道路公団と、後のNEXCO各社は公団ゴシックを使い続けたわけだが、やはり問題がないわけではなかったし、近年では世の中の様相も変化した。

「問題」は、主には下記のとおりだった。

・視認性についての批判はなかったようだが、「誤字じゃないか」との指摘はあった模様

・長年にわたり多くの人手で制作されてきたため、文字ごとの筆致のばらつきが著しく、フォント全体としての統一感に欠けていた

・多くの字が「基準枠」全体を使って同寸法で作字されるため、複数の文字を並べると同じ大きさに見えず、バランスが悪く感じられることがあった

 最後のポイントについては若干の補足が必要かもしれない。フォントというのは「同じ大きさに作れば同じ大きさに見える」というものではなく、じつは文字ごとに微妙にサイズを変えることで、結果として「違う文字が並んだとき、同じ大きさに見える」という視覚現象が発生する。公団ゴシックは「基準枠全体を使う」というルールがあったため、この点において少々の問題が発生していたのだ。

 そして、「世の中の様相も変化」とは、以下のとおりだ。

・名神高速が開通した1963年と違い、いまは「視認性に優れる市販のデジタルフォント」がたくさんある

 そのため、NEXCO3社は「より認識しやすい標識レイアウト」にすることを目的に、高速道路標識の見直しを行ったのだ。

 検討段階では「ナウ」「タイプバンク」「新ゴ」「ヒラギノ」という4種類の和文フォントが検討対象となり、さまざまな試験が行われた。その結果、「ぬけのよさ」は各フォントに大きな差はなかったものの、ヒラギノにのみオブジェクト・エンハンスメント(視覚特性に合わせて対象を見やすくすること。ヒラギノの場合でいえば、文字の端部分を微妙に太くしている)が施されていることがわかった。そしてなおかつ、ヒラギノは「潟」や「都」の例ではサンズイやオオザトが大きく、遠方からの視認性にとくに優れていると判断し、「ヒラギノW5角ゴシック体」が高速道路の新たな和文フォントとして採用されたのだ。

 当然ながらヒラギノは優秀なフォントであり、公団ゴシックのようなハネや字画などを省略せずとも、抜群の視認性を発揮できる。そのためヒラギノW5角ゴシック体への変更に何の文句もあるわけではないのだが、ヒラギノは、Mac OS Xに標準搭載されている「見慣れたフォント」であるとはいえる。

 そんななかで、各地の高速道路でまだ見ることができる「公団ゴシック」は異彩を放っているというか、独特の味わいを、ドライバーに感じさせてくれるものだった。

 ヒラギノへの置き換えが順次進んでいるいま、いつまで公団ゴシックを見ることができるかはわからない。だがたまに見かけた際には「……ありがとう、公団ゴシック。君のほのぼのした感じ、僕はけっこう好きだったよ」という感じで、脇見運転にならない範囲にて、感謝の思いを伝えたいとは思っている。


伊達軍曹 DATE GUNSO

自動車ライター

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