じつは小排気量でもハイパワー化は可能
しかし、そうした制約を無視すれば、排気量が小さくても1000馬力は可能だ。
古くからのF1ファン、ホンダファンであればお馴染みであろう。1980年代にホンダがF1チームに供給していたV6ツインターボ「RA168E」型エンジンは、1.5リッターという排気量ながら1050馬力以上を発生していたと公表されている。
コルベットZR1しかり、1980年代のF1エンジン(1.5リッターターボ)もしかり、ターボエンジンについていえば、過給圧を上げることでエンジンに送り込める空気量が増やせる。ホンダのF1エンジンでは、予選アタックにてターボチャージャーの過給圧を極限まで上げることで1500馬力を発生していたという伝説も残っている。
「リッターあたり1000馬力」は実現されていたのだ。ある意味、1000馬力を発生させるために必要なエンジン排気量は1リッターもあれば十分という見方もできる。
それでは、ターボエンジンであれば大排気量でなくとも最高出力1000馬力が達成できるのかといえば、そうではない。内燃機関は空気に燃料を混ぜ、それを燃焼させることで出力を得ている。1000馬力に十分な燃料を供給できる能力が最低でも必要となる。
たとえば、内燃機関の燃料消費量を計算するスペックとしての燃料消費率というものがある。その単位はg/PS・hというもので、1PS(馬力)を一時間発生させるために必要な燃料を重量で示している。そして、ガソリンエンジンが最高出力を発生している状態では、300g/PS・hというのが教科書的な基準となる。
ガソリンの比重は約0.75なので300gは400cc相当だ。1時間に400ccのガソリンを供給できると1馬力を発生していることになる。つまり1000馬力のエンジンでは1時間あたり40万cc(400リッター)の燃料を消費するといえる。
ご存じのように、燃料を送り込むためのパーツは「インジェクター」と呼ばれている。そして、一般的にインジェクターの最大吐出性能はcc/min(1分間あたりの噴射量)で示される。上記の粗計算をもとに時間単位を時間から分へ換算すると、1分間で6.6ccのガソリンを吐出できれば1馬力となり、1000馬力を発生させるにはトータル6600cc/minの能力が必要といえるわけだ。
通常、インジェクターは気筒ごとに備わっている。たとえば8気筒エンジンで1000馬力を達成したいのであれば825cc/minのインジェクターが必要という風に計算できる。同様に6気筒エンジンでは1100cc/min、4気筒であれば1650cc/minのインジェクターが最低でも必要といえる。
もちろん、そのほかに検討すべき要素はいくつもあるが、とにかく燃料供給が必要十分以上でなければ、目標の馬力を発生することはできない……というのが内燃機関の基本的な考え方といえるだろう。