CX-80はデザイナーを悩ませまくった「かっこいい」の定義に逆行するカタチ! 既成概念を壊して生まれたデザインの秘密とは? (2/2ページ)

グリルのアクセントで差別化を図った

──CX-80はパッケージング的に、綺麗なプロポーションが取りにくいとは思うのですが、たとえばメルセデス・ベンツGLBのように完全な箱にしてしまうか、もしくはサイドウインドウの天地をCX-8以上にうんと薄くする方法も考えられたと思います。そこはあまり極端に走るのではなく、バランスを取りたかったということでしょうか?

玉谷 ボクシーな絵は少し描いてみましたが、マツダの走りを表現するようなCX-60のフロントがあるうえで、その後ろに箱を付けたような形にはできないと、一瞬で判断しましたね。

 また、薄いウインドウというのはこれまでの方程式ですし、極端に薄くしていくと乗員に必ず閉塞感を与えるので、これは自然な豊かさにはならないと思っていました。

「乗ってみたいな」と思わせる、外から見た豊かさと、乗ったときに「やっぱりこの空間はいいよね」と感じていただけるものを合致させなければならないので、窓枠を少し大きくしています。

 3列目にも専用のサイドウインドウがあって、前方を見たときに視界がパノラミックに広がる雰囲気があり、サンルーフも面積が大きくなっていますので、それが開放感として機能します。

 そういう意味で、空間を豊かにしたかったので、今回のCX-80のようなバランスになりました。

──新型車が発売されたときに一般ユーザーがとくに楽しみにするのは、フロントマスクとインパネのデザインだと思うのですが、それをなぜCX-60とCX-80とで共通化することにしたのでしょうか?

玉谷 CX-60とCX-80、また北米向けのCX-70とCX-90、この4車型で考えていますが、これをマツダの企業体力できっちりフィニッシュさせていこうとすると、少しは効率性を上げなければなりません。また、CX-60とCX-80では人格といえるボディをしっかり変えているんですね。ですから無理にフロントを変更していません。リソースが有り余っていたら差別化したかもしれませんが、今回はそこにはエネルギーを使っていません。

 また、CX-70とCX-90では、メタルの部分がまったく一緒なんですよ。同じボディで2列シート車と3列シート車を作っています。そこで性格をしっかり変えるために、こちらでは前後バンパーのデザインを差別化していますね。

 お客様からすれば、差別化してほしいというのは理解できます。私もそうですので、CX-80はグリルにアクセントを付けています。

 長いモデルライフのなかで、我々のビジネスが成長し成功していけば、CX-60とCX-80の性格をもっと明確に変えていこうということになるかもしれません。

 インテリアもCX-60とCX-80とで一緒なんですよね。マツダは商売があまり上手ではないところがあって(笑)、CX-60だけにあれだけのバリエーションを用意するのは多過ぎですよね? あれもラージ商品群にしっかり分配していくという流れのなかで開発したすべてのインテリアなんですが、最初に全部出してしまって(苦笑)。

 ただ将来、CX-80を発売する際に、フラッグシップとして認めていただける質感を作り込んだものが最初からあって、それをリリースしたということですね。

 ですから、CX-80に向けてさらに新たなものを追加するのは体力的にも難しかったですし、もっと上手な出し方はあったと思います。

──ボディカラーとしてはメルティングカッパーメタリックが新色として設定されましたが、実車で見るとフラットな質感に見えました。最近のマツダ車の特徴である「光の移ろい」が感じにくい光の出方をしていると思うのですが、それはメタルの粒子が細かいからでしょうか?

玉谷 フラットな見え方は意図しているものではなく、恐らく車両が置いてある環境ですね。今日(2024年6月7日。取材時点の天気は雲の多い晴れ)のような曇り空では乱反射した波長の光がふわっと全周から集まってくるんですよね。そうなると恐らくどんな色でも本来の実力は出せていないと思います。

 メルティングカッパーメタリックは、白いヴェールがうっすら被ったような質感も、アルミフレークの細かさから出ているんですが、それでカッパーを生々しく見せない、ちょっと新しい質感になっているんですね。シェードでは少し黒い色で落ちますが、いろんな光でいろんな表情が見えるのも、あの色の強みだと思っています。

──フロントフェンダーに「INLINE 6」といったエンブレムがCX-80には装着されていますが、ああいったエンブレムは、デザイナーさんの視点ではどうなのでしょうか?

玉谷 最小限にしたいですよね。表現すべきものは表現するけど、いろんな技術を入れるたびにひとつずつ増えていき、バッジだらけになるのは好ましくないですね。

──バッジ自体のフォントやデザインもこだわって作られているのでしょうか?

玉谷 そうですね。文字やマークは共通でデザインする者がいますので、チーフデザイナーと協議しながら作ってもらっています。デザイン本部内でCIに関わる文字を司るブランドスタイル部があります。

──CX-80のようなクルマでも通用するものにしなければダメだということですね。

玉谷 はい。文字やマークを決めるときは、Bセグメント車からラージ商品群までイメージして討議しながら決めます。

──マツダさん全体で、今後「匠塗」のさらなるバリエーション展開はあるのでしょうか?

玉谷 「匠塗」は少しずつ広げていくと思います。

──現時点では赤系が中心で、グレーとパールホワイトがあるという展開ですが、青系やカッパーのような金属系の色も合うのではないかと想像しますが……。

玉谷 でも急激にバリエーションを拡大することはしないと思います。これまでソウルレッドやマシーングレーという限定的な範囲でスタートしたのは、やはりブランドの軸をしっかり表現する、どの「匠塗」でもマツダのブランドを象徴する色というイメージにしようという狙いからです。パレットのように多くの色があると、イメージが散漫になるんですね。

 その軸をとおしたうえで、どの色にも共通するものを感じ取っていただけるようにしなければ、ブランドサポートカラーにはなりません。メルティングカッパーのようにキャラクターを増やしていくうえで上質なものはこれからも作り続けていくので、そこは使いわけていくと思います。

 ブランドサポートカラーは、いまから10数年経っても使っていける種類の範疇に収めていくと思います。

──発売後の進化も期待しています。ありがとうございました!


遠藤正賢 ENDO MASAKATSU

自動車・業界ジャーナリスト/編集

愛車
ホンダS2000(2003年式)
趣味
ゲーム
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