ドライバーを苦しめているのは利用客
たとえば、ある路線の廃止が発表されると、沿線住民が存続運動をよく起こす。しかも、「運賃を上げてもいいから残してほしい」といったコメントも聞かれるが、単純に運賃値上げを行おうとすると反対運動が起こる。さらに、普段はマイカーで日常生活の移動をすませているのに、「路線廃止するな」となる人も多い。人件費、燃料費などの高騰のなか、運行継続しても利用者が少ないので採算がとれない。運転士のやりくりも大変だから減便や路線を廃止しようとすると、なぜか反対運動が盛り上がる。バス事業者からすれば、「なんで?」ということになるのも珍しくないようだ。
また、近年ではカスハラ(カスタマー・ハラスメント)もひどくなる一方で、カスハラを理由に離職する人や、新たにタクシーも含めて運転士を目指そうとする人がなかなかいないということを招いており、旅客輸送業界の働き手不足の最大の理由がカスハラだともいわれている。
先日、静岡県でバスに乗車していた小学生のICカード残高不足に対するバス運転士のとった行動が問題となった。結果、小学生は路線の乗り継ぎを諦め、猛暑の炎天下のなか2時間かけて徒歩で自宅へ帰ったとのこと。そして、運転士のとった態度は不適切とし、事業者は謝罪した。
前述した例は運転士の不適切な対応といえるものとなるが、老若男女を問わず利用者から運転士に対するカスハラは絶えきれないほど日常的に多いそうだ。報道ベースではあるものの、インバウンド(訪日外国人旅行客)との運賃収受におけるトラブルは、観光地ほど目立っているともいわれている。また、いくら注意しても減らない高齢者の乗車中の席移動など、明確なハラスメント行為ではなくとも(注意すると逆ギレされることがあるとのこと)、運転士の神経をすり減らす要因となっているようだ。
このような業務のなか、万が一交通事故でも起こせば実名で「逮捕された」と報道される。一時的な身柄確保というケースが多いのだが、日本では逮捕報道はかなりの「致命傷」となる。このようなリスクの高い仕事なので、本人ではなくまわりの家族が運転士になることをやめさせるということも、なかなか働き手が増えない背景にはあるようだ。
単に賃金面など待遇面の改善だけでは根本的な解決にはならない。どこに問題があり、どの問題がより根深いかなどを、運行現場をつぶさにまわって現状認識して解決していかない限りは、今後も運転士不足は続き、路線バスでは減便や路線廃止は続くことになるだろう。