ソーラーカーを実現するために立ちはだかる壁
ただし、まったく外部充電に頼らずソーラーパネルだけでクルマを走らせるためには課題が多い。
仮にワンボックス形状にしてルーフ面積を広げるとしてみよう。ボディ形状が変われば空気抵抗にも影響するのでプリウスの数値をあてはめるのは適切ではないが、あえて7.5km/kWhの電力消費率を固定したまま試算してみよう。
前述した一般ユーザーの平均的な年間走行距離6000km走行に必要な電力量は800kWhとなり、最大出力800W相当のソーラーパネルを使う必要がある。その場合のルーフ面積はおよそ8平方メートルとなる。
ノーズなどをもたないカタチを想定したとして、全長4.5m×全幅1.8mの車体が必要となるのだ。その上で、空気抵抗を減らすために全高1.5m以下にすれば、計算上は一年間の走行に使う電力をルーフ部のソーラーパネルだけでカバーできそうだ。
ただし、上記の計算はあくまで机上の空論でしかない。
いうまでもなくソーラーパネルは天候などの諸条件によって発電能力が変化する。単純に夜間はほとんど発電できないので、ソーラーパネルによる電力をリアルタイムに消費した走行だけを想定するのはあり得ない。ある程度は走行用バッテリーをもち、そこに充電して走ることになる。
年間6000kmしか走らないといっても毎日ちょっとずつ走っているわけではなく、平日はほとんどの時間が駐車場に置いてあって、週末に遠出するといった使われ方が多いだろう。仮に外部充電を使わずに、ソーラーパネルだけで消費電力をカバーしようとすると、週末に利用する電力相当のバッテリーを積んでおき、それを平日にソーラーパネルで充電する必要が出てくる。ソーラーパネルで発電できるようにしても、バッテリー搭載量を大幅に減らすことにはつながらない。結果として、ソーラーパネルによる発電機能をもったEVもしくはPHEVとなってしまう未来しか描けないのだ。
欧州などでは外部充電に頼らず、太陽光発電だけで走行できるソーラーカーの実現を目指すスタートアップも出てきているが、上記の理由から走行用バッテリーをもたないソーラーカーを実現するのは不可能だろう。
そもそも、現状のソーラーパネルに期待される最大出力からすると、バッテリーを使わずに走行するのは不可能といえる。
前述したプリウスPHEVを市街地モードで走らせたときの消費電力は、カタログ値で113Wh/kmとなっている。最大出力800Wのソーラーパネルで、リアルタイム発電だけで走行する場合の距離を計算すると1時間で7kmにしかならない。また、電力ロスをゼロだと仮定しても、瞬間最大出力800Wの電力で1.5t前後の乗用車を走らせることは難しいといえる。
すなわち、現状のソーラーパネル発電能力、車両重量や走行抵抗などからすると、リアルタイムに太陽光発電だけで走る量産ソーラーカーは非現実的といえる。ただし、ソーラーパネルで車載バッテリーを充電する機能を持つEVやPHEVを「新ソーラーカー」と定義するのであれば、ほとんど自然エネルギーで走ることのできるクルマを生み出すことは可能といえそうだ。