クーペやスポーツカーが絶滅することはない
一方、クーペが豊富だった1990年ごろを振り返ると、登録台数が増える3月には、S13型シルビアが1カ月で1万台以上を登録することもあった。3代目プレリュードは約7000台、5代目セリカも6000台前後を登録した。いまのクーペ市場は、1990年頃の10%以下まで減っている。
つまり、いまの日本におけるクーペは、どう頑張っても「月販1000台以下のクルマ作り」だ。ただ、ビジネスとして成立しにくいが、たとえばフルモデルチェンジをしないで17年間にわたって販売しているGT-Rのように、ひとつの世代を長く作る方法はある。1カ月当たりの販売台数が少ないから、長く作ることで生産台数を増やす。
ただし、容易ではない。長く作り続けるには、開発段階において、時間を経過しても色褪せない普遍的な魅力を備えた商品に仕上げる必要があるからだ。近年のGT-Rは、1カ月平均で70台前後が安定して売られ、2024年の上半期には、改良の影響もあって1カ月平均が100台以上まで増えた。
GT-Rが発売から17年を経過しても売れ行きが増える息の長い人気車になった理由は、ほかの国産スポーツカーに負けない動力性能と走行安定性を備えるからだ。GT-Rには衝突被害軽減ブレーキは一切装着されず、先進安全装備は軽自動車にも負けるが、購買層は少数でも確実に存在する。こういったクルマ作りをすることが不可欠になる。
そして、モデルチェンジの周期が長いのであれば、常に綿密な改良を施す必要も生じる。少数でも長く安定的に売るには、その車種のファンを生み出し、定期的に乗り替えてもらうことが条件になるからだ。最初に購入したあと、フルモデルチェンジしないのに5年ごとに乗り替えるためには、少なくとも2年に1回は商品力を維持できる改良を加えねばならない。この開発体制作りも重要だ。
そして、今後は電動化を視野に入れる必要がある。これから先、ひとつの車種をGT-Rのように20年近く売るには、電動化の道筋を立ててからでないと難しい。いまは従来のパワーユニットから電動中心に発展する過渡期にあり、クーペやスポーツカーは開発しにくい。従って、これらのクルマは一時的に姿を消すかも知れないが、必ず復活する。クーペやスポーツカーは、カッコよくて運転が楽しいという、クルマの魅力の本質を突いたカテゴリーであるからだ。