ヤリス・フィット・ノートで迷ったらドレ? 得意分野がまったく異なるライバル3台を徹底比較した (2/2ページ)

キャラの差がクッキリと出ているヤリス・ノート・フィット

 フィットはホンダ自慢のセンタータンクレイアウトを採用した「パッケージング大賞!」と呼びたくなるほどのコンパクトカーだ。現行型はその4代目であり、内容的に、まさに熟成を極めたフィットといっていい。2024年9月5日発売モデルの一部改良では全グレードに全席オートパワーウインドウ、オートリトラミラー、ラゲッジルームランプなどを採用し、装備を充実させている。

 標準車にBASIC、HOME、RS、LUXEといったグレードのほか、いきなりカッコよくなるクロスオーバーテイストのクロスターを揃えているのも特徴だ。

 主力はe:HEVと呼ばれる1.5リッターエンジン、106馬力、13.0kg-m+2モーター、123馬力/25.8kg-mのハイブリット。WLTCモード燃費は最高30.2km/L。コネクティッド機能を始め、電子パーキングブレーキとオートブレーキホールド機能も装備する。

 室内スペースは、フィット伝統でもあるハッチバックタイプのコンパクトカー最大級の広さが自慢だ。前席頭上に200mm、後席頭上に120mm、膝まわりに320mmものクラスを超えたスペースがある。後席フロア中央の凸は最小限。後席乗員の着座、立ち上がりのしやすさにかかわるヒール段差=フロアからシート前端までの高さは365mmとこれまた十分である。

 ラゲッジルームは開口部地上高590mm、フロア奥行き600~660mm、フロア幅1010mm、最低天井高650mm(後席背後では780mm)。つまり、開口部がヤリスやノートより低く、重い荷物の出し入れ性で優位に立つ。しかも、シートアレンジ性はライバルを凌ぎ、後席の格納はワンアクションで行え、さらにごく低いフラットスペースが出現するため、リヤドアからの荷物の出し入れもラクラク。伝統の、観葉植物などの背の高い荷物を積むのに有効な座面と背もたれをハネ上げるトールモードの用意もフィットならではだ。

 では、3車の走りはどうか。

 ヤリスの運転席に座れば、まずはシートのよさが印象的。トヨタの上級車と同様、背中の優しい包まれ感、座面のソフトなクッション性がもたらす体重によるサポート感が好ましい。前方視界に不満はないものの、Cピラーの太さによる斜め後方視界はいまひとつ。とはいえ、そもそも5ナンバーサイズ、最小回転半径4.8~5.1m(標準装着タイヤ)の小まわり性が利くコンパクトカーなのだから、取りまわし性に不満などあるはずもない。

 一部改良を受けたWLTCモード25.4km/LとなるHV ZのFFモデルを走らせれば、出足から強力なモーターパワーの威力で、どのドライブモードにセットしていてもスポーティカーのように速い。その速さを受け止めるボディ剛性の高さ、硬めのサスセッティングに加えて試乗車は185/55R16サイズのタイヤを装着しているため、乗り心地はけっこう硬め。荒れた路面、段差ではロードノイズ、ガタツキ感のあるショックと音に見舞われる。

 が、パワーステアリングの中立付近のドシリとしたタッチ、そこから切り込んでいくときの安心感ある重み、路面からのインフォメーションの確かさもあって、コンパクトスポーティカーのような走りのテイストを伝えてくれるのだから、走りは痛快。繰り返すが、プロアクティブドライビングアシストの支援も特筆モノである。

 ノートe-POWERの走りは、なるほど100%電動駆動による電動車感覚の強さが特徴だ。発電に専念する1.2リッターエンジンは始動しても静かにまわり、なおかつバッテリー残量に余裕がある場合、極力発電をしない(エンジンを始動させない)制御も採用されているから、走行中の静かさはコンパクトカーの域を超えたものといっていい。そして、好みは別れるかもしれないが、ワンペダル走行モードをもつのも特徴だ。

 ルノーと共用するプラットフォームによる乗り心地はしっかりフラット。出足からの粘り強いEV走行時のスムースさ、フットワークの安定感もなかなかのもの。ワンペダルによる減速感(減速G)もいまではそこそこ違和感のないものとなっている。動力性能も十二分といってよく、終始、上質な走りが味わえる。

 ちなみにプロパイロットは1.5と呼べる進化型で、高速道路上での渋滞追従機能、渋滞時の停止保持時間が約30秒というところも使いやすさに直結する。

 前後ドアの開閉タッチ、音まで国産コンパクトカー離れした上質さのあるフィット。走らせれば、乗り心地は滑らかかつ伸びやかな加速感がまずは好印象。多くのシーンで基本的にはモーター走行を行い、エンジンは発電を担うのがe:HEVで、クルージング状態ではほぼモーター走行。たとえエンジンが始動しても、エンジンノイズの車内への透過音が抑えられ、それを気づかせないのもさすが。

 パワーフィール的には、ホンダのエコモードスイッチといえるECONをオフ=ノーマルモードにしても穏やかなものだが、市街地、高速道路で加速力不足を感じさせることなどまずないといっていい。

 乗り心地は15/16インチタイヤを問わず、フラットで心地よいマイルド感が持ち味(RSを除く)。シートの分厚いクッション感をもつかけ心地のよさとの相乗効果で、コンパクトカーらしからぬ、もっとずっと上級な大型のクルマに乗っているかのような快適感をもたらしてくれるのだ。

 一方、専用サスペンションと16インチタイヤを奢るRS(ロードセイリングの略)の走りは、ドシリとして骨太で上質なタッチに終始。やや重めのパワーステアリングを操作すれば、乗り味としてコンパクトカーとは思えない上級車並みのしっかり感、上級感、走りの切れ味が特徴となる。

 こうして国産コンパクトカーの代表格3台を比較して乗り比べると、エクステリアデザイン的に万人向けなのはノートとフィット(フィットはクロスオーバーモデルのクロスターがダントツにカッコいい)。後席の広さ、居住性、シートアレンジ性のよさにこだわるならフィット。電動車感の強さで選ぶなら100%電動駆動のノート(上級のノートオーラもある)。標準車でパーソナルカーとしてスポーティな走りを楽しみ、市街地走行でのさらなる安心を望むならプロアクティブドライビングアシストも備わるヤリス……ということになるだろうか。


青山尚暉 AOYAMA NAOKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント
趣味
スニーカー、バッグ、帽子の蒐集、車内の計測
好きな有名人
Yuming

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