面白いクルマがしれっと消えてるぞ! 一長一短ある個性派コンパクト「スズキ・イグニス」よさらば!! (2/2ページ)

実用性の高さが魅力だった

 内装は欧州のベーシックカーに似た印象でシンプルだ。エアコンのスイッチは高い位置に装着され、ATレバーも前後に動かすタイプだから使いやすい。居住性は一長一短だ。前席はサイズに余裕があり、硬めの座り心地ながら、腰から大腿部をしっかりと支えて長距離移動も快適だ。その代わり後席は、全長が短いこともあって足もと空間も少し狭い。身長170cmの大人4名が乗車して、膝先空間は握りコブシ1つ半に留まる。後席は座面の長さも不足気味で、前席に比べると40mm短い445mmだ。従って大腿部に違和感が生じる。

 荷室も荷室長が短く、リヤゲートを寝かせたから容量も小さい。しかしリヤゲートのヒンジが前寄りに装着されるため、開閉時に後方へ張り出しにくく、狭い場所でも荷物を出し入れしやすい。

 パワーユニットは直列4気筒1.2リッターマイルドハイブリッドだ。2WDの車両重量は最上級グレードのハイブリッドMZでも880kgと軽く、動力性能に余裕がある。4気筒エンジンだからノイズも小さい。乗り心地は硬めで、路上の細かなデコボコを伝えやすい。そのかわり、ステアリング操作に対する反応は比較的機敏で、峠道では車両の進行方向を変えやすい。

 以上のようにイグニスは、一長一短の多いクルマだった。ボディはコンパクトで小まわりの利きもいいが、後方視界はあまり良くない。インパネのデザインは機能的で前席の座り心地も快適だが、後席は頭上や足もとが狭めで座り心地も良好とはいえない。荷室は狭めだが、リヤゲートの開閉性はよい。走りは機敏で楽しいが、乗り心地は硬めだ。

 イグニスは内外装が個性的で、価格もハイブリッドMZが約180万円に達したこともあり、売れ行きは伸び悩んだ。2015年に発売され、2016年の1カ月平均登録台数は約2000台だ。当時のソリオの半分以下に留まった。2023年は約160台だから、2016年の10分の1以下まで下がっていた。

 廃止されても仕方ないと思わせるが、欧州のベーシックなコンパクトカーを連想させるユニークなクルマであった。以前のスプラッシュを含めて、スズキはときどき、マニアックで面白いコンパクトカーを投入する。イグニスもそのひとつだ。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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