これって輸入旧車じゃないの? 1960年代にデザインセンスが炸裂した「日野コンマース」

この記事をまとめると

■乗用車の日野のコンマースを振り返る

■コンテッサが生まれる前年の1960年に登場している

■キャブオーバーのバンでありながらFFレイアウトを採用していた

キャブオーバーのバンでありながらFFを採用

 日野デュトロZ EVは、小型トラックとしては珍しいFF方式を採用しているが、じつは大昔にその先祖ともいえるクルマが存在した。それが日野コンマースである。現在こそ日野自動車はトラックの専門メーカーであるが、設立当初は乗用車も作っており、日野ルノーことルノー4CVやコンテッサなどの名車を生み出していることはよく知られている。コンマースは、コンテッサが生まれる前年の1960年に登場したキャブオーバー型のバン/ワゴンだった。

 昔のクルマはプレス技術がいまほど高度ではなく、デザインもデザイナーが想像して手書きで仕上げていた時代。アナログなスタイリングは温かみがあってユニークなモノが多いが、コンマースも丸みのあるボディに丸型ヘッドライト、フロントグリルが与えられただけのシンプルなデザインで、なんとも愛くるしい動物のような印象を放つクルマだった。コンマースがユニークなのは、そのスタイリングだけではない。フロントドアは前ヒンジでモノコックボディを採用。サスペンションは四輪独立懸架と先進的な構造も採用されていた。

 それに何より、前述のとおりキャブオーバーのバンでありながらFFだったのである。

 当時はFRが一般的な時代。しかも後部に重量物を載せるバンとしては、現在でもFRが主流なのだから、変わっている。先にも述べたが、日野はコンマースやコンテッサが生まれる前の1950年代にルノー4CVという前輪駆動の乗用車をノックダウン生産しており、その縦置きFFのメカニズムを利用してキャブオーバーのバンを開発したのである。

 しかし、現在のFF車の多くが採用する等速ジョイント(ドライブシャフトの角度が変わっても均一な回転数を保つ)は採用されておらず、耐久性や信頼性(振動が発生しやすい)で問題を抱えることになった。結果的に、わずか2年間で2000台あまりを生産して販売を終了してしまったのだが、低床で乗り心地にも優れたコンマースのコンセプトは潰えず日野の内部で語り継がれてきたのだろう。ヤマト運輸からのリクエストもあって、デュトロZ EVによって再びそのレイアウトは日の目を見たのである。

 ちなみにデュトロZ EVの前に、日野はコンセプトモデルとしてキャブオーバー型のFF式EVの試作車を開発している。これはeZ CARGOという名称が与えられ、ポンチョミニEVというコミュニティバスとともに、小型EV商用車プラットフォームを採用したモデルとして2013年の東京モーターショーに出品された。

 つまり、デュトロZ EVのレイアウトは1959年(コンマースの特許出願)から発生し、FFのEVプラットフォームを2013年に復活させ、2021年にデュトロZ EVとして発表されて2022年には発売されるに至ったものなのである。

 日野コンマースやeZ CARGO、ポンチョミニEVは日野の博物館、日野オートプラザに展示されているから、実車を見ることもできる。


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