アルファならではのハンドリングを実現
期待していた走りはどうだったか。
ジュニアの基本骨格は、ジープ・アベンジャーやフィアット600eにも使われている、eCMPというステランティスのモジュラー型プラットフォームだ。が、今回の試乗車だったラインアップのなかのハイパフォーマンス・バージョン、ジュニア・エレットリカ280ヴェローチェには、アルファロメオらしいドライビングダイナミクスを作り上げるためのさまざまな趣向がこらされていた。ブランド違いの姉妹車たちとはもちろん大きく異なるし、同じジュニアのなかでもヴェローチェのみ特別な仕様になってもいるようだ。
どんなところかといえば、アップライトを専用設計とし、前マクファーソンストラット+後トーションビームのサスペンションのジオメトリーと構造の一部を変更、油圧ストッパー付きのダンパーを採用、ステアリングギヤ比をBEVとしてはクイックな14.6対1に設定、フロントブレーキにφ380の大径ディスクを選択、さらにはトルセンDという機械式LSDを新開発、と多岐に渡っている。
トルセンDは、2006年に147ではじめて導入したQ2システムの、トルク感応型機械式LSDの働きを電子制御する仕組みを大幅に進化させてきたもの。ステルヴィオでは11.8:1のスーパークイックなステアリングギヤレシオ、トナーレでは前下がりのロール軸と、ハンドリングを彩るための“飛び道具”のようなものがあったわけだが、ジュニア・ヴェローチェではこれがそれにあたるのだろう。
その土台に搭載されるパワーユニットは、前輪を駆動する最新のM4+モーターと54kWの高エネルギー密度バッテリーの組み合わせ。280馬力の最高出力と345Nmの最大トルクを発揮し、5.9秒という0-100km/h加速、200km/hの最高速度、そしてWLTPサイクル334kmの航続距離を可能にしているという。
今回の国際試乗会は、1962年にアルファロメオのレーシングカー開発のためのテストコースとして誕生した、いわばアルファロメオの聖地。そして現在はステランティス・グループ全体のプルービンググラウンドになっているバロッコの地。いつもの高速主体のサーキットだけじゃなく、さまざまな曲率のコーナーもアップダウンもいろいろなタイプの路面もそれらの複合技もある、一般道を模した20kmほどのサーキットも走ることができた。その直前に立ち話をしたダイナミクス担当のチーフエンジニアは、“このクルマはレーシングカーじゃなくて、ファミリーカーだからね”なんて笑っていたが、たしかにそうなのかもしれないけど、いや、そんなもんじゃないということは走りはじめて3分もしないうちに嫌でもわかった。ちっとも嫌じゃなかったけど。
最初に心が動かされたのは、滑らかなフィーリングだった。モーター駆動のクルマは加速が滑らであって当然と言われるけれど、ジュニアのそれはクラスでもっとも上質といえるほどの気もちよさ。最新のM4+というモーターの賜物だろうか? パワーステアリングのフィールもそう。切り込んでいくときの感触が何ともいえず心地いい。乗り心地も同じく。サスペンションはどちらかといえば硬めではあるのだけど、それを受けとめる車体がかなり強固で脚がよく働くから、伝わってくるのはしなやかさと滑らかさ。ピッチングやロールも適度に抑えられていて快適だ。これもまたクラスを越えた上質な乗り味といっていいだろう。
アクセルペダルを奥まで踏み込むと、その滑らかさをたっぷりと感じさせながら、結構な力強さでダッシュを開始する。車重が1590kgと同クラスのライバルたちよりおよそ200kg軽いことも手伝って、数値以上に強力だ。その爽快さに、思わずニヤリとしてしまう。鳥肌が立つほど速いわけじゃないが、BセグのSUVであることを考えたら十分以上。いや、普段使いのクルマであるなら、むしろこのくらいのほうがちょうどいい。
最大の喜びは、いうまでもなくハンドリングだった。アルファロメオは環境問題がクローズアップされて個性的な内燃エンジンを作りにくい時代になってから、とくにここにこだわっている。スポーツセダンのジュリアはいうに及ばず、SUVの姉貴分であるステルヴィオやトナーレも、素晴らしいハンドリングでドライバーを魅了してくれる。末妹にあたるジュニアも、ここに一点の曇りもない出来映えだった。
スッとステアリングを操作すると、その瞬間に前輪と後輪が同調するように俊敏に反応し、旋回を開始、ドライバーが望んだラインをピタリとなぞっていく。進入時のオーバーステアもない。脱出時のアンダーステアもない。タイヤは常にしっかり路面をとらえ、蹴り出し、姿勢を乱すことなく、コーナーをクリアしようとする。トルセンDの効き目が顕れているわけだ。しかもかなりの速さでグイグイ曲がっていくわりに、伝わってくるフィーリングに不自然さはない。楽しい。気もちいい。病みつきになる。ステルヴィオほど初期反応は鋭くないし、トナーレみたいに抉り込むような曲がり方はしないけれど、“曲がる”ことにまつわる印象は、むしろジュニア・ヴェローチェのほうが鮮烈といえるかもしれない。
そこにはバッテリーEVならではの低重心と重量バランスのよさも好影響を与えているわけだが、さらに車重が1590kgとライバルたちより200kgほど軽いことも効いている。その軽さは当然ながら発進加速にも中間加速にもいい作用を与えていて、ジュニア・ヴェローチェのスタートダッシュもコーナーからの立ち上がり加速も、軽快にして爽快だ。0-100km/h加速5.9秒、最高速度200k/hと、BセグメントのSUVとしてはかなり俊足な部類に入るだろう。
カタチは好きずき──きっと見慣れて好きになっていく人が多いはず──だが、なかなか悪くない。乗り心地がいい。感触は上質。胸がすくぐらいの速さはある。ハンドリングは絶品。何よりサイズが日本にもマッチする。ほかに何が必要? と思った。
たしかに昔ながらのアルフィスティが望むような快いサウンドはない。心にシンクロするような心地よい振動もない。けれど、それらを補えるだけの楽しさと気もちよさが、ジュニア・ヴェローチェにはある。
この電動アルファは、誰もが想像していたよりも、遙かに“アルファロメオ”だったのだ。