BEVからICE車に乗り換える人が急増
問題は世界的にBEVの普及スピードが鈍化していることにある。東南アジアというかタイでは、新型コロナ感染拡大が落ち着きを見せた2022年あたりから中国メーカーの相次ぐ進出もあり、都市部を中心にBEVが物珍しさもあってか急速に普及していった。しかし、そのような初期にBEVを購入したユーザーの乗り換え時期に差しかかっている最近では、HEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)も含め、乗り換え車両についてはICE(内燃機関)車への回帰が目立ってくるともいわれている。
世界的にHEVが注目されているのも、BEVからICE車への回帰傾向が目立っていることも影響しているかもしれない。日本でも初代リーフ以来、長い間BEVを販売している日産系正規ディーラーで話を聞くと、いったんBEVへ乗り換えた客が再びICE車(e-POWER車が多いみたいだが)へ乗り換えるということは珍しくないとの話であった。
BYDがここのところPHEVにも熱心に取り組んでいる状況が目立っている。その背景はいろいろあるのだろうが、今後目立ってくるであろうICE車へ回帰しようとするユーザーの「つなぎとめ」に使おうという狙いもあるように見える。
BEVは、同クラスのICE車に比べれば割高イメージが先行してしまう。そのため、現状で興味を示し、実際に所有するのは所得に余裕のある人となってしまうほか、最近では短期間でクルマの乗り換えを繰り返す人も多い。「やっぱりBEVは合わない」と短期間でICE車へ回帰できる人はいいが、日々生活に追われる層では短期間でマイカーの乗り換えを繰り返すことは難しい。これこそが、いまBEV普及の「踊り場状態」を生んでいるひとつの背景ではないかと筆者は考えている。
その踊り場状態を、BEVのなかでは圧倒的に買い得感の高い中国系BEVが風穴を開けようとしているところで、とくに先進国では警戒感を高めているようにも見える。
BYDにしても現地生産計画は各地域であるものの、実際に開所しているのはタイ工場のみとなっている。いまの市場環境、そしてBYD以外の中国メーカーも海外現地生産を模索しているなかでは、供給過剰によって乱売状況に陥るのではないかとの不安もあってしかるべきだろう。
次世代産業としてBEVが注目されるなか、中国がこの分野では主導的立場になっている。単純な開発競争だけならまだいいのだろうが、さまざまな「チャイナリスク」をはらんでいることで、BEV普及に政治の影が大きくチラついてしまっていることで問題がより複雑化してしまっている。