この記事をまとめると
■マツダ・ロードペーサーAPはオーストラリアのホールデンからボディ供給を受けていた
■元々V8エンジンなどを載せる大柄なボディだったのでロータリーエンジンでは役者不足だった
■わずか3年で生産を終了してしまった悲運な高級セダンだった
オーストラリア製セダンに2ローターを搭載した上級セダン
ロードペーサーAPは、マツダ(当時は東洋工業)が1975年に売り出した3ナンバーの上級4ドアセダンだ。自社開発ではなく、オーストラリアのホールデン(ゼネラルモーターズ系)から供与を受け、これに独自のロータリーエンジンを搭載して市場導入した。
マツダは、1967年にコスモスポーツでロータリーエンジンを実用化し、以後、ロータリーエンジン車の拡充を行ってきた。そのなかに、上級車種のルーチェがある。1972年からの2代目ルーチェでは、より排気量の大きいロータリーエンジン(13B)を開発した。これを、さらに上級のロードペーサーAPにも採用したのである。
他社では、トヨタのセンチュリーが1967年に発売されている。これは排気量4000ccのV型8気筒エンジンを搭載した。13B型が排気量を増やした仕様であり、654ccの2ローターで、4ストロークと違い、毎回転ごとに燃焼を行える2ストローク的な運転で高い出力が得られるとはいえ、V型8気筒エンジンには性能で及ばない。
そもそも、もとになったオーストラリアのホールデンの車両も、上級車種ではV型8気筒を搭載していた。上級車の性能や乗り心地は、大排気量エンジンによる低速トルクの大きさが作りあげている。
ロータリーエンジンは、軽量小型でありながら高出力を得られる利点がある。しかしそれは、エンジン回転を高めたところでの出力の優秀さであり、低速トルクは苦手な領域だ。軽い車体であれば、それでも高回転での伸びやかな出力特性で壮快な走りを実現できるが、車両重量の重い3ナンバー車では荷が重い。
そうしたこともあり、志半ばというべきわずか3年で生産は中止となり、1979年には販売を終了している。
マツダはいま、ラージ商品群向けとして直列6気筒エンジンを新開発し、上級車への挑戦を行っている。大柄な上級車は、当然ながら車両重量が増加し、発進でより大きなトルクを必要とする。大トルクを満たしてこそ、高級な乗り味がもたらされるのである。
その点で、じつは、モーターは低速トルクが得意な動力源だ。いよいよ、英国のロールスロイスも電気自動車(EV)を発表した。過去、V型8気筒やV型12気筒など、大排気量エンジンが高級車に搭載されてきた理由は、大きな低速トルクを求めた結果だ。そして、余計にエンジン回転を上げずに済めば、振動や騒音も抑えられ、静々と上質な走りを実現できる。
21世紀の高級車を模索するなら、モーター駆動しかないのではないか。滑らかにまわって振動のないモーターは、ロータリーエンジンの持ち味に通じる感触をもたらすことになるだろう。