この記事をまとめると
■新車ディーラーでの商談はセールスマンのワザの見せどころでもあった
■昭和から平成初期はお客の目の前で「手計算」にて見積書を作成するのが主流だった
■働き手不足も深刻で「1980年代フォーマット」を継承することはすでに限界にきている
昭和・平成の商談はエンターテインメントの場でもあった
新車購入においては、最近では若い世代ほど「ウザい」と感じるかもしれないが、ディーラーのショールームを訪れてセールスマンとひざを突き合わせて車種選びや値引き交渉を進める「商談」を行うのがまだ一般的である。新型コロナウイルスの感染拡大が進むなか、オンライン会議システムなどを活用した「リモート商談」なるものが注目されたが、その後、新型コロナウイルスの感染拡大収束後はすっかりなりを潜めている。
日本よりはるかに社会のデジタル化が進んでいるアメリカでも、いまのところリモート商談の利用は限定的との話もある(アメリカでは契約成立後すぐに店頭にある購入した新車に乗って帰ることもできる)。面倒くさいとは思いつつも、セールスマンとのリアルワールドでの商談が世界的にはまだまだ主流となっているようだ。ただし韓国では例外的ともいえるが、オンライン商談が主流となっているようである。
商談はもちろん購入条件の交渉の場なのであるが、単に交渉するだけではなくセールスマンは交渉の課程でお客の購買意欲を喚起させるための「ワザを見せる」エンターテインメントの場でもあったのだ。
昭和や平成初期には「手計算」にて見積書(一般消費者に対しては正式書式のものではないが)を作成するのが主流であった。電卓を華麗に操り、いかに短い時間で作り上げるかがセールスマンのワザの見せどころでもあった。
一覧表はもっていたのだが、自動車税や重量税、自賠責保険料などをすべて暗記しておき、計算対象車種に合わせてパッパと計上し、任意保険料についても手計算で保険料を算出するなど、商談テーブルにてお客の目の前でセールスマンは見せ場を作っていたのである。そして、お客も知らず知らずのうちにそのワザに魅入られていき購入意欲が高揚していったのである。
そして令和のいま、見積書は端末入力して作成しプリントアウトするのが当たり前となっている。トヨタ系やスズキ系の一部ディーラーなどでは、タブレット端末や商談テーブルに大きめなディスプレイを設置してお客の目の前で作成するが、多くのメーカー系ディーラーでは、お客の希望を聞くと奥の事務スペースへ引っ込み、そこにある端末で見積書を作成してもってくることになる。お客としては作成している間は待ちぼうけを食らうことになる。これではなかなか購入意欲も高まらない。
仮に商談テーブルで作成できたとしても、最近では税金など諸費用が複雑になっていることもあり、端末に条件入力すると自動的に各諸費用が算出されて見積書が完成してしまうので、見せ場というものはなくなってきている。