腕1本で稼げるから……なんて甘い社会じゃない! タクシー運転士は思ったよりも「社会の縮図的」職業だった (2/2ページ)

タクシーはなんだかんだで組織社会

 筆者が取材した限りでは、もともと優良運転士まで自身をアップデートし、自らのノウハウで稼ぐと同時に「おいしい仕事」もこなし高収入を得ていた運転士が、さらにスマホアプリ配車というデジタルツールを使いこなし、ますます稼ぎを増やしているケースも多い様子。デジタルツール導入により必ずしも運転士全体の稼ぎを著しく底上げしているわけでもないともいえる。ましてや、すでに都市部を中心にタクシーの稼働台数がかなり多くなっており、なかなか思うように稼ぐことができなくなっているのも実情だ。

 デジタルツールが普及する以前でも、大手や準大手の事業者などでは事故やクレームが少なく(またはない)、会社側とコミュニケーションが十分とれていたりすると、「班長」などと呼ばれる運転士の束ね役になることがある。班長になると、あくまで事業者によるとという話にはなるが、稼ぎのいい羽田空港といった「おいしい着け場」への出入りが許されたりしているようだ(羽田空港は地方から上京する人も多いので道を十分知っている必要があるとの理由もある)。

 圧倒的に「上客」の多い銀座地区でも、指定乗り場以外からタクシー乗車ができない「乗禁地区」への出入りは班長や優良ドライバーに限定されていたりするとも聞いたことがある(銀座の客はタクシーに乗り慣れているので、ちょっとしたことでトラブルにもなりやすい)。早朝深夜のテレビ局の送迎や大口顧客対応なども、もちろん選ばれた運転士しかまわってこないとも聞いている。

 つまり、一般的なサラリーマンのような「組織社会」がないと思って運転士になっても、タクシー業界にも「組織社会」が存在しているのである。そのため、運転士といってもドイツ系高級輸入車などを所有し、休みのたびに仲間とゴルフに出かけるような運転士グループもあれば、まさに日々の生活費に困る運転士もいる。その意味でも「社会の縮図」なのである。

 もちろん、そのような組織社会とは一線を画す「一匹狼」的な運転士も当然存在する。さまざまな理由からタクシー運転士は独身率も高いので、身軽な人も多いし、副業(どちらが副業かという話もあるが)をもっており、社会保険だけもらえればいいという人もいる。

 一般的には優良顧客が多く、スマホ配車アプリなどのデジタルツールが充実している大手事業者が、より高収入を期待できて魅力を感じる人も多いようだが、「長く続けたいならば、保有台数もそれほど多くない、家族的な雰囲気の目立つ中小零細事業者で乗務するのが肩ひじを張らずにできるのでいいとも業界内では聞いたことがあります。しかし、いまはその中小零細事業者が大手タクシー会社グループに吸収されるケースも多いので、その選択も難しくなっています。昔から「民鉄系(私鉄/私企業の鉄道会社)」のタクシー会社は就労環境が充実していることもあり、長続きしやすいとして根強い人気があるとも聞いています(事情通)」。

 法人タクシーという形態は世界でも存在するが、車両を貸し出す程度で運転士の立ち位置が「業務請け負い」のようなものも目立つ。日本のように、より「サラリーマン」という表現が似合う正社員採用するという雇用関係が成立しているのは世界的にも珍しい。「それでは個人タクシーは?」という話もあるが、あくまで個人事業主にはなるものの、今度はいくつかある組合に加盟しないと、なかなか「おいしい仕事」にありつけないとも聞いている。

 運転士同士でグループを形成し、利用回数の多い深夜の長距離客を「馴染み客」として「シェア」するなど、より稼ごうとすると「ひとりで気ままに」というわけにもなかなかいかないようである。ただ、あえて組合加盟はせず(加盟料が結構高いらしい)にスマホのアプリ配車サービスに加盟する個人タクシーも増え、個別に動く個人タクシーも増えているようである。

「タクシー業界は日本社会の縮図」、つまり島国であり、いまだに「村社会」色の濃い日本では、タクシー業界もまた組織社会という側面を強く持っているのである。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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