【試乗】水に濡れると柔らかく! 温度が下がっても硬化しない! オールシーズンタイヤの常識を覆すダンロップの「アクティブトレッド技術」に乗ったら確かにスゴかった (2/2ページ)

氷上でのグリップ力の進化が感じられた

 圧雪路においては発進も制動もスタッドレレスタイヤと同等のグリップ性能を引き出せた。急勾配の登坂での発進性にはまだ課題があるといえるが、それも4WD車であればほとんど問題なく発進できる。100km/hでのスラロームにおける操縦性・安定性も常用レベルでは問題なく走破できる。最近の車両には優秀な電子制御が搭載されているので、こうした車両であれば平坦路はほとんど問題なく走行可能で、4WDであればなおさら安定性が高まる。

 問題は氷上路面。いわゆるミラーバーンの路面での走行性能だ。はっきりいえば現代のスタッドレスタイヤでも氷上性能は不足している。ブレーキを踏んでもABSが介入するだけで制動Gは引き出せず、制動距離は伸びる。FFでも4WDでも変わらず、電子制御も大きな助けにはならない。それだけにアクティブトレッド技術も劇的な変化を起こすことはできていない。ただ夏タイヤに比べればわずかにマシであり、スタッドレスタイヤにはわずかに及ばない、というレベルだった。従来のオールシーズンタイヤであれば、ほとんど夏タイヤと変わらない程度にグリップ力だったので、進化を果たしているのは間違いないのだ。

 岡山のテストコースには乾燥舗装路とウエット舗装路の路面コンディションが設定されていた。まずスタッドレスタイヤで走行を始めると、時にウエット路でのグリップの低さに改めて驚かされた。定常円旋回ではフルロックまでステアリングを切り込んでも旋回性は高まらず、車速が高ければコースアウトしかねない。ブレーキングも制動距離が伸び、安定性も損ないやすい。電子制御が作動してもグリップしないので効果が期待できないのは氷の上と同じ理屈だ。スタッドレスタイヤのウエット性能の低さは本当に危険なレベルだといえる。

スタッドレスタイヤでのウエット路走行イメージ

 乾燥路においてはロードノイズが大きく、転がり抵抗も増え、快適な使用感は得られない。タイヤの摩耗は早く、スタッドレスタイヤで夏を過ごすのは危険で不経済だ。

 次にアクティブトレッド搭載タイヤを試す。ウエットグリップは段違いに向上して夏タイヤと遜色ないレベル。定常円旋回では高い車速が保て、ステアリング切り増しにも応答してくれる。水スイッチが機能したことで実用的なウエット性能が発揮できている。

アクティブトレッド搭載タイヤでのウエット路の定常円旋回

 乾燥路では温度スイッチが機能しトレッドゴムが硬化する。その効果により転がり抵抗が軽減し、またタイヤトレッド面の変形が抑制されリニアリティの高い操舵特性となっていた。トレッドパターンによる高周波のパターンノイズが気になったが、これは車側の遮音性によって差が出てくるだろう。

 そのアクティブトレッド技術とはどんな内容なのか。「温度スイッチ」とか「水スイッチ」というワードが使われているが、ダンロップはこれらを「ウエザースイッチ」と称している。といっても物理的なスイッチがあってドライバーが操作することで作動させるような類のものではない。タイヤのトレッドゴムは高度な高分子化学により設計されている。アクティブトレッド用ゴムには特殊なポリマーを独自の方法で配列し、低温でも動きやすいポリマー配列として、また高温ではポリマーが硬くなる従来とは真逆の性質を持たせたのが「温度スイッチ」。一方、ゴム分子内のポリマー間結合をイオン結合に置き換え、水に濡れるとイオン結合をほどいてゴムの性質を柔らかく変化させるのが「水スイッチ」だ。

 言葉で表現するのは難しいが、目に見えないミクロの世界で物性を瞬時に変化させてタイヤの可能性を広げた革新的な技術なのだといえる。

 アクティブトレッド技術を搭載する新オースシーズンタイヤは2024年秋に登場する予定だが、この技術はM+Sや夏タイヤ、レース用タイヤなどにも応用がきく。トラックのリトレッド、航空機のタイヤとしても理論的に適合するはずだ。アクティブトレッド技術の今後の展開にも大いに注目していきたい。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
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海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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