【試乗】非日常的な実用車の極み! 美しくて走れて使える「マセラティ・グランカブリオ」の世界感が見事すぎる (2/2ページ)

ドライビングを楽しむための要素を総動員

 グランカブリオは、リヤシートもすこぶる快適な作りだ。4座イタリアンスポーツといえばフェラーリ・ローマスパイダーや少し前のポルトフィーノMが思い出されるが、あちらスポーツカーではあくまでエマージェンシー使いとなるリヤの+2シートと、大人でも長距離・長時間を前提とするこちらGTのそれでは、大きな隔たりがある。

 リヤシートでもセンターコンソールは外側のアームレストとちゃんと同じ高さに揃えられ、USB×2とドリンクホルダー、エアコンの吹き出し口も備わる。また、リヤの2座の中間には、ソナス・ファベールの16個のスピーカーシステムを構成するサブウーファーが組み込まれ、「フレッシュエア」テクノロジーというオープンエア専用のチューンが施されている。

 2名乗車時にはリヤシートに、ウインドストッパーと呼ばれる走行風の巻き込み防止ネットがつけられ、普段は畳んでケースに入れてトランクに収納できる。

 試乗日は快晴で、うってつけのオープン日和だった。まず市街地や県道で、ステアリングホイール内の右側のダイヤルをまわし、「GT」モードで走らせた。左右のウインドウを閉じたままなら風がそよそよと感じられる程度で、3リッターV6ツインターボのネットゥーノエンジンも片バンク休止機構がきいているのだろう、ゴロゴロと猫なで声のように大人しい。

 とはいえイージーな乗り心地と、適度なハンドリング・レスポンスを兼ね備えたGTモードの守備範囲は広い。長い登りの続く峠道でトルクレスポンスが物足りないこともなければ、ある程度タイトなコーナーが連続しても、操舵量は大きめながら身のこなしは軽い。直線気味の高速道路では、足まわりがより柔らかくバウンスする「コンフォート」がようやくハマるほどに、適度にスポーティなのだ。

 だがグランカブリオの本領は、純粋に「走る・止まる・曲がる」を楽しませる点にある。ワインディングを楽しむときは、やはり「スポーツ」あるいは「コルサ」モードの出番。いずれも追加コマンドでESCオフにできるモードで、足まわりも締め上げられるだけでなく、車高が落ちてロール軸ごと下がる。エキゾーストサウンドも勇ましくトランスミッションのラグも詰められ、オープンエアならそれこそネットゥーノの荒ぶるトーンと豪快な加速が、ダイレクトに身体に伝わってくる。乗り手を挑発するより、乗り手の操作にあくまで忠実にヴィークルダイナミクスが最大化され、アドレナリンよりドーパミン的満足感が得られるモードだ。

 51 :49の優れた前後重量配分、ほぼFRに徹して滅多に前輪駆動が介入しない4WDシステム、ダイブしすぎずコントロール性に優れたフロント380mm/リヤ350mmの大径ブレーキ、そして姿勢変化の掴みやすいステアリングフィールやスポーツシートなど、ドライビングを楽しむための要素をグランカブリオは総動員してくれる。

 今回は公道試乗だったので、アドレナリン領域たる「コルサ」をじっくり試すことはなかったが、最小限の制御介入でドライバーを煽り立ててくるような、最大限の切れ味とアジリティを引き出す方向性は確認できた。

 以前のマセラティV8より大人しいなどと評されるネットゥーノだが、F1由来のテクノロジーで市販車として初めて採用されたプレチャンバー機構は、高回転でこそ威力を発揮するメカニズム。6000rpmからのエッジのきいた伸びにマセラティの古典的要素、危うい香りを認めない訳にいかない。

 美しくて、人も乗せられて、旅行に必要な最低限の荷物も積めて、オープンエアも楽しめれば、幌を閉じた際の居住性も上々で、何より走らせることが楽しいエンジンとハンドリング。おそらくGTとしての本領は、4名フル乗車・フル積載で長距離行をした際に、移動の力強さや意外に伸びる燃費となっても表れてくるだろう。ドルチェ・ヴィータ(甘い生活)を、8K並の解像度でワイドに見せてくれる突き抜けイタリアンGT、それがグランカブリオなのだ。


南陽一浩 NANYO KAZUHIRO

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