出たときゃ「いますぐ貯金始めなきゃ」レベルの盛り上がり! それでも結局市販されなかった残念なコンセプトカー3選 (2/2ページ)

一緒に発表されたモデルが市販化された例も

日産IDx

 2013年の東京モーターショーで世界初公開された、コンパクトな箱形2ドアクーペ。シンプルでカジュアルなライフスタイルに焦点を置いた「IDxフリーフロー」と、ドライビングシミュレーターから飛び出してきたようなスポーティモデルの可能性を示した「IDxニスモ」の2台が展示された。

 いずれにおいても、ターゲットユーザーとなる1990年以降生まれのデジタルネイティブなZ世代と「コ・クリエーション(共同創造)」する開発手法を採用している。

 身のまわりのものすべてにナチュラルでハイセンスなものを求めているコ・クリエーター(共同創造者)たちが開発した「IDxフリーフロー」は、シンプルかつモダンで居心地のいい内外装を、全長×全幅×全高=約4.1×約1.7×約1.3mのコンパクトなパッケージに構築。

 パワートレインは日常の移動手段としての高い経済性を求めるコ・クリエーターたちの嗜好に合わせ、「燃費性能と加速性能に優れた1.2〜1.5リッターのガソリンエンジンとCVT」を搭載する。

 レースシミュレーションゲーム上で古今東西のあらゆるレースシーンを体験してきたコ・クリエーターが開発したという「IDxニスモ」は、実際に彼らが乗るクルマにもそのイメージが表現されていることを求めた結果として、日産の箱形レーシングカーのイメージを純化。

 ビス止めのオーバーフェンダーで全幅を約1.8mへと拡大し、225/40R19タイヤと軽量ホイール、サイドマフラー、カーボンパネル、真っ赤なアルカンターラ生地のシートとスエード調トリムなどを装着している。

 パワートレインは初代ジューク由来と思われる、高性能な1.6リッターの直噴ターボエンジンと、シンクロレブコントロール制御を実装した6速マニュアルモード付きCVTとの組み合わせだ。

 こうしてできあがった2台は、かたや初代シルビア、かたやハコスカ(3代目スカイライン)のレーシングカーを思わせる、極めてレトロテイストの強い仕上がり。これらを懐古主義的な中高年世代ではなくZ世代が生み出したという点でも非常に興味深く、昨今の昭和ブームを先取りしたようなコンセプトカーだった。

 しかし、2台の「IDx」はそのアイディアすら何かしらの市販車に反映されることなくフェードアウト。7代目S15型シルビア以来の手頃かつハイパワーなFRスポーツカーとなることが、発表当時も強く熱望されていただけに心から惜しまれるが、当時から現在に至るまでの日産の車種構成を見るにつけ、市販化がまったく現実的でないと容易に察してしまうのがただただ寂しい。

ホンダ・スポーツEVコンセプト

 2017年の東京モーターショーで世界初公開された、BEV2ドアクーペ。これに先立って同年9月のフランクフルトモーターショーで世界初公開された小型5ドアハッチバックBEV「アーバンEVコンセプト」と共通のEV専用プラットフォームを採用している。

 扱いやすいコンパクトなボディに、レスポンスのいい電動パワーユニットを搭載し、モーターならではの力強く滑らかな加速と静粛性、低重心による優れた運動性能を実現。

 デザインにおいては、ロー&ワイドのスポーツカーらしいフォルムを継承しながら、ひと目で心に残るカタチや、多彩なライフスタイルに自然と溶け込む親しみやすいフロントフェイス、豊かな張りのある面構成などを用いて、所有する喜びと愛着が感じられる、次世代のスポーツカーデザインを目指した、としている。

「アーバンEVコンセプト」のほうは、後に欧州CAFE(企業別平均燃費基準)対応のため「ホンダe」として2020年に市販化。しかし、メインターゲットの欧州に加え日本でも販売不振を極め、2024年1月に生産を終了した。

 だがこれは当然の帰結といわざるを得ない。ホンダeより8年も先んじて2012年に発売された、同カテゴリーのBMW i3のほうが、ホンダeよりもむしろ先進的なデザインや技術を数多く採用しながら、価格帯は大差なかったのだから。

 しかもデザインモチーフとされたのは明らかに、軽自動車のN-ONEと同じくN360。つまりホンダeはN-ONEの拡大版かつBEV版とも受け取れるため、ますます積極的に購入する意義を見いだしにくいものになっていた。

 かくしてホンダeは、ホンダ車に時折見られる「発表された瞬間から負けが目に見えていてそのとおりになったクルマ」の1台にめでたく仲間入りしてしまったが、その惨憺たる結末をこうして振り返ると、「アーバンEVコンセプトではなくスポーツEVコンセプトを市販化したほうがよかったのでは……?」と、甚だ結果論ながら強く疑問を抱いてしまう。

 そうすれば「S600クーペあるいはS800クーペの現代的再解釈」として、500万円弱の価格帯にも正当性を持たせつつ、競合車のいないオンリーワンの存在として独自性=プレミアムな価値を付与でき、ホンダe以上の販売台数を(場合によっては収益も)得られたのではないだろうか。


遠藤正賢 ENDO MASAKATSU

自動車・業界ジャーナリスト/編集

愛車
ホンダS2000(2003年式)
趣味
ゲーム
好きな有名人
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