12気筒には人を酔わせる魔力が宿る! 百戦錬磨のモータージャーナリストを唸らせたクルマとエンジンとは? (2/2ページ)

GTCルッソに乗ってクルマにはひと目惚れがあると痛感した

 しかし、F1の世界では1964年にホンダはV12を開発し、その翌年にF1で初優勝。1980年代のF1黄金期にも3リッターV12は活躍していた。お遊びでホンダのV12が搭載されたF1プロトタイプに乗ったことがあるが、1万8000回転くらいまでまわるホンダのV12は異次元の世界だった。

 さらにあのスバルも水平対向のH12(V型ではなく水平対向なのでH12と書く)で1990年にF1に参戦したことがあった。スパフランコルシャン24時間レースでNSXチームで一緒に組んだことがあるベルトラン・ガショー選手は、当時のスバルF1のドライバーだった。

 当時の話を聞いたことがあった。ベルトランいわく「パワーはあったが、シャシーが負けていた」と述べていた。スバルのF1参戦は結局、1回も予選を通過できないという悲惨な状況であった。スバルのH12はまるで卓球台のように大きく重く、シャシーの剛性がなかったことが問題だった。ダウンフォースもなく、ストレートでもスピンしたと告白していた。だが、そのサウンドは素晴らしく振動は皆無。

 フェラーリのV12に話を戻すが、クルマにはひと目惚れがあると痛感したことがある。それは初めてフェラーリのGTCルッソに乗ったときのこと。V12が奏でる音はまるでオーケストラ。私の心拍数はマックスに達していた。完全バランスのV12はエンジン本体から振動が出にくいので、自分の骨から伝わる骨伝導の成分はあまり大きくない。直接、鼓膜を振るわせるのは空気の振動なのだ。骨よりも空気のほうが音のエネルギーを減衰しやすいので、フロントエンジンのV12はほかのフェラーリとは違って聞こえていた。

 私はあえてギヤをMモードにして低い回転を使って走った。身体に伝わる振動ではなく、ヘッドフォンで聴く音楽のように、音源が遠くに感じる心地よさを発見したのだ。V12を静かにさせておくと、空気を切り裂く音や駆動系全体から鳴る低いチューバのような音も聞き逃さない。

 新型プロサングエのテストドライブでは、あえてエンジンの回転を抑えて走ると、その存在感を忘れさせてくれた。ワインディングを走っても、その洗練された動きはマシンとの一体感を感じる。モーターによるアクティブサスペンションは見事にうねった路面をトレースし、人とマシンが完全に同化した。この瞬間に心理的なオーガズム状態に達する。

 人からなんと見られようが、人の目を気にしないで乗れる陶酔できるフェラーリ。AWDなので、白銀の世界に誘うこともできそうだ。もはや、これは私の知るフェラーリではなく、私が知らなかったフェラーリなのだった。


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