この記事をまとめると
■フェラーリにとってV12エンジンは特別な存在だ
■多くのエンジン技術者は完全バランスエンジンといわれるV12を目指す
■清水和夫さんがフェラーリ・プロサングエに試乗して12気筒エンジンについて語る
エンジン技術者はみなV12を目指す
フェラーリから究極のエンジンとして期待できるV12気筒が発表された。このエンジンはフロントミッドに搭載される2シーターベルリネッタというパッケージだ。つまり、「812スーパーファスト」の後継モデルにあたるが、モデル名が「12 Cilindri(ドーディチ・チリンドリ)」とはとてもいかしているではないか。これはイタリア語で12気筒を意味するが、このようにエンジン形式が車名になるケースは初めてである。それほどフェラーリにとってエンジンは重要でしかもV12エンジンは特別な存在のエンジンなのだ。
この発表の前に最近日本に導入されたプロサングエを試乗してきたばかりだが、このモデルはGTCルッソ譲りのV12エンジンをもつ。今回発表された「12 Cilindri」はプロサングエのV12を細部にわたってアップデートした新エンジンだが、プロサングエに搭載されるV12は排気量6.5リッターで65度のバンク角を持ち、最高出力725馬力、最大トルク716Nmを発揮する。
これだけでも十分だと筆者は思うが、フェラーリのエンジニアは満足していない。他方、新型V12「12 Cilindri」の最高出力830馬力、最大トルクは678Nmを発揮するものの、最大トルクの80%を2500rpmで絞り出す。試乗はまだだが、9500回転までまわる新型V12は人類史上最後で最高のエンジンではないだろうか。
ところで、なぜ多くのエンジンの技術者はV12を目指すのか。その理由はエンジンの振動が少なく、完全バランスといわれているからだ。
世の中でトップエンドのスーパーカーと呼ばれるスポーツカーには12気筒エンジンが常識であった。スポーツカーとしてはV12の象徴的な存在がフェラーリであり、ランボルギーニであり、アストンマーチン。1990年代まではジャガーもWシックスと親しまれたV12はエンスーの憧れであった。
量産メーカーであるメルセデスやBMWも最近はV12を搭載するが、VWとアウディは全長が短いW型12気筒を実用化している。国産ではトヨタのセンチュリー(先代モデル)がV12をもっているが、このエンジンは振動を少なくするためのV12であるからスポーツカーとは意味は異なる。
バブル期には日産もV型12気筒を極秘に開発していた。日産は試作エンジンを開発してテストベンチで研究していたが、じつはこのエンジンでルマン24時間レースに参戦する計画もあったくらいだ。マツダは「アマティ(Amati=当時のレクサスのような高級ブランド)」という高級車を開発し、独自のV12を搭載する計画であった。排気量は4リッターでV12。その試作車に乗れる直前になってプロジェクトは頓挫した。じつはこのエンジンは2リッターV6エンジンを合体させたもので、そのV6はその後、ランティスに搭載された。