この記事をまとめると
■リチウムイオン電池を補完する二次電池として「ナトリウムイオン電池」が注目され始めた
■ナトリウムはリチウムに比べ資源量が豊富なため製造コストが抑えられるメリットがある
■ナトリウムイオン電池を採用すると車両価格が大幅に抑えられる可能性がある
あまり聞き慣れない「ナトリウムイオン電池」とは
ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池を補完する二次電池(充放電できる電池)として、近年、注目されだした。
電極の、正極と負極の間をイオンが行き来し、それによって充放電を行う仕組みは、リチウムイオン電池と同じだ。ただ、正極にリチウムより原子番号の大きいナトリウムを使うので、ナトリウムイオン電池という。
リチウムに比べ、ナトリウムは電圧(V:ボルト)が4割ほど低い。電力(W:ワット)は、電圧(V)×電流(A:アンペア)で求められるので、電流が同じだとすれば、電圧が低いぶん、ナトリウムイオン電池は電力が小さくなり、電気自動車(EV)にたとえれば、一充電走行距離が短くなる。
このため、圧倒的高性能が期待されるリチウムイオン電池に比べ、ナトリウムイオン電池は注目されにくかった。ただ、ナトリウムはリチウムに比べ資源量が豊富なため、大量に使用されても安価に抑えられ、それがひいてはEVの値下げにつながることから、実用化できないかと研究が続けられてきた。
リチウムイオン電池でも、リン酸鉄を正極に使う中国のBYDなどは、三元系(コバルト/ニッケル/マンガン)と呼ばれる電極に比べ容量が小さく、EVに向かないとされてきた。だが、たとえばBYDは横に長い電極(ブレードバッテリーとBYDは名付ける)を、バッテリーケースに収めることで面積を稼ぎ、それで容量を増大し、EVで使える性能を満たした。米国のテスラも、モデル3ではリン酸鉄を使っている。リン酸鉄の利点は、安価であることと、安全性がより高いことが見込まれるところにある。
ナトリウムイオン電池も、負極にハードカーボンを用いることで、電圧を上げ、EVに利用できそうなところまで研究が進んだ。また、既存のリチウムイオン電池と同じ製造工程で作れるのも、追加投資をそれほど必要としない親近感がある。
それでも、一充電走行距離の長さを競う現在の消費者心理に対し、遠方まで無充電で行けるといった性能が満たせるかどうかまだわからない。しかし、軽EVのように、日常的な走行距離が限られ、そのうえで遠方への移動では急速充電網が拡充すれば、日々の足として安価に買えるEVとして需要は出てくるだろう。
日産サクラや三菱ekクロスEVは、補助金の活用で軽のターボエンジン車に近い値段で手に入れられる。ナトリウムイオン電池の実用化が成功すれば、補助金なしでもエンジン車と競合できるEVの登場にひと役買うかもしれない。