政治の影響でBEVが左右される諸外国! 対照的に際立つ日本の自動車市場の健全性 (2/2ページ)

ICE以上にBEVの普及には政治が絡んでいる

 また、その流れとは別に意外なほど欧州、とくに西ヨーロッパ地域の消費者に受け入れられつつある中国メーカーのBEVに対する関税引き上げなども進んでおり、欧州におけるBEV普及はまさに踊り場にきているといえよう。

 一方のアメリカは、今年の秋の大統領選挙次第でBEV普及政策が大きく変わるかもしれない。「もしトラ」、「マジトラ」などともいわれる共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏の次期大統領就任が高いとされている。トランプ氏はすでに大統領に就任したときには、いままでの民主党バイデン政権が推し進めてきたBEVに関する政策を大幅に見直すとしている。

 何がいいたいかというと、ICE車についても環境規制などにおいて政府介入というものを強く感じるが、BEVについてはその普及についてまで「政治」の存在が大きい。政府のさじ加減次第で普及スピードなども大きな影響を受けてしまうのである。

 中国メーカーのBEVが安価なことについてはさまざまなことが取りざたされているが、その優秀性もあるから、欧州では関税引き上げなどで流入を可能な限り食い止めようとしているのだろう。

 かつて1980年代あたりの日本車も「政府が極端な補助金を出している」といったことまではいわれなかったものの、欧米では「こんなに環境性能を中心に良質で優秀なクルマが、これだけ安価に作ることができるわけがない」と、いわれないバッシングを受けていたことと、いまの欧米での中国メーカーのBEVに対する動きは、どこかオーバーラップして見えてしまう。

 BEVと政治というのはICE車よりも密接な関係があると見ている。自動車産業が盛んな地域では長期的に見れば、「100%BEV化」なのかはともかく、新たな成長産業として政府は注目し、日本車に対抗したいとも考えているのも間違いないだろう。

 一方の日本国内では政府が何を目指しているのか、その方向性がいまひとつ定まっていないなか、民間主導でBEV普及が進んでいるともいえ、消費者判断にゆだねる部分が多いようにも見える。こういった環境は、諸外国よりある意味健全なものとも感じてしまう。

 燃費や燃焼効率に優れたICE、そしてそのICEをベースにしたHEV(ハイブリッド車)をラインアップする日本車が圧倒的に売れている日本市場では、BEVを選ぶ理由はなかなか見いだせない。販売現場で聞いても、「いったんBEVを購入したあと、HEVに戻る人もいる」との話もあり、まさに潮流としては「BEVまっしぐら」ではなく、個々の消費者の価値観のなかでしか選ばれていないようなものを感じる(補助金に引かれてということもあるようだが……)。

 政治の世界での勢力図次第でBEVの普及が左右されるというのは、あまり健全な状況には見えない。政治との距離感が諸外国よりあり(いまの日本の政治の混迷ぶりのなかではなかなか政治の目も届かない)、環境性能にすぐれたBEV以外の自動車が豊富に存在するなかで、賢明な消費者が自分の愛車を選んでいくと、「世界的にもBEVの分野では取り残され気味」などとも表現できる状況にはなるものの、いまの日本の状況が健全な市場環境を維持しているとも表現できるのかもしれない。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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