S13が生まれたのはこのクルマのおかげ
当時のエピソードとしては、同じくリトラクタブルヘッドライトを用いたAE86スプリンタートレノと似ており、人気の違いから、S12型シルビアに乗っていても、Bピラー以降のサイドビューを見て「AE86ですか?」なんて間違われることもあったらしい……。
ちなみに、やや全高の高いFJ20型エンジンを遅れて搭載することになったとき、スラントノーズの低いボンネットに収まらず、バルジを急遽追加。もっともバルジとしての機能はもたず、あくまでFJ20型エンジンを搭載するための苦肉の策だったのである。
が、それがS12型シルビアのファンにとってはS12型の象徴ともなって、FJ20型エンジン非搭載のシルビアユーザーがバルジを後付けしてみたり、なんと、ディーラーでもバルジ非装備のS12型シルビアの新車にバルジを付けて、ディーラーの”特別仕様車”として販売していたこともあったようだ。それぐらい、S12型シルビアにとって、ボンネットフードのバルジは神器アイテムだったということだろう(あくまでマニアの考え方だが……)。
とはいえ販売台数は、たとえば次期モデルのS13型の大ヒットと比べれば寂しいものだった。というのも、すでに説明した、AE86の人気の陰に隠れてしまったことと、これまた伝説の国産スペシャルティ&スポーティカーとして1980年代に君臨した、クラス上の2代目A60型トヨタ・セリカXX(2000GT/1981年デビュー)に対しても強気な値付けが災いしたとも考えられる。
しかし、シルビアは死ななかった。ご存じのように、バブル期真っ盛りの1988年にデビューした5代目となるアートフォース・シルビアを名乗るS13型シルビアは、歴代最多の販売台数を誇る空前の大ヒット。グッドデザイン賞も受賞したほどだった。
デートカーとしてはもちろん、5ナンバーサイズのFRレイアウトでもあることから、走り屋にも絶賛され、その後、スポーツドライビング、ドリフトの練習車としても重宝される存在となったのである。販売絶好調だったこともあり、基本の2ドアクーペのほか、デートカー色をより強めた2ドアコンバーチブルも用意されたほどで、S13型シルビアはデビューから36年を経たいまなお、根強い人気を誇っている。
いい方を変えれば、ハイテク自慢でリトラクタブルヘッドライトが象徴的なS12型シルビアがなければS13型はないわけで、S12型の影は薄いものの、シルビアの伝統の系譜の1台として、忘れてはいけない存在といっていいかも知れない。