アメリカ企業との取引で気がついた! 日本に蔓延る荷主が運送業者を「下に見る」雰囲気は安全をも阻害する

この記事をまとめると

■トラックドライバーの低運賃が問題となっている

■国はようやく動き出したものの荷主たちの腰はいまだに重いのが現状だ

■運賃引き上げに応じない大手企業との取引を終了した運送会社の例を紹介

アメリカ企業との取引で認識した「ドライバーファースト」

 働き方改革関連法の物流業界への本格適用の時期になりながら、いまだに試行錯誤が続く2024年問題の解決。その「問題」の根底にあるのは、日本の同業界の運賃の低さとドライバーの長時間労働にあることはいうまでもない。運賃値上げに向け、ようやく国が動き出したものの、荷主たちの腰はいまだに重いのが現状だ。

 そんななか、会社を継続させるため、自社のドライバーの生活を守るため、立ち上がる運送業者も現れ始めている。千葉県を拠点に、東京港に届く輸入貨物を関東一円に運ぶ、とある運送会社は、運賃引き上げに応じない大手企業との取引を2023年3月に終了した。

 その荷主の仕事は1件あたりの輸送距離が短く、もともと運賃も低かったため、同社では利益を出すために他社の運送業務と組み合わせることで採算を合わせていた。しかし、2024年4月からの働き方改革関連法の適用=ドライバーの時間外労働の上限適用により、これまでこなしてきた1日2件の業務が時間的に困難になってきた。規制に違反せず、赤字が出ないように仕事を続けるために、同社の社長はその事情を荷主に話し「運賃が損益分岐点を超えられるようにしてください」と運賃アップを交渉。

 しかし荷主は、「そちらの損益分岐点は高すぎる」とこの要請を拒否。その大手企業とは創業以来取引を続けていた長年の得意先で、発注の多いときには会社の売上のおよそ1割を占めていたこともあったが、このままでは大赤字になってしまうため、やむなく取引を打ち切ることにしたという。とはいえ、幸いほかの取引先での売上増もあり、ダメージは少なかったそうだ。

 この運送会社の社長が大手企業との取引を打ち切る決断をした背景には、アメリカ企業との取引があったという。その荷主は仕事を始める際に「年間通して、君の会社が食べていけるだけの金額をいってくれ」といってきた。そのドライバーファーストのアメリカ企業との取引で、同社は2018年には過去最高益を達成した。同社の社長は、「そのアメリカ企業はわたしたちをビジネスパートナーとして対等に見てくれていた。一方で日本の荷主の多くが、下請けの運送業者のことを考えていない」ことを改めて認識したという。

 運賃が上がらないままではドライバーの給与も上げられず、人手の確保が難しくなるだけでなく、安全の確保も難しくなる。「運送事業者にとって、安全は一番の売りであり、商品でもある」そう考える同社では、最新のトラックを導入するだけでなく、それを動かすドライバーの安全教育にも力を入れている。その研修には実技費用のほか指導者の人件費や場所代も入れると、1日8万円はかかるという。その費用の捻出をせず、ドライバーをただひたすら働かせていたがために事故を発生させ、結果として会社を畳んだ同業者も少なくない。

 そんな光景を目の当たりにしてきた同社の社長は、「安全にはお金がかかる。安全のためには適正な運賃が必要だということを多くの人たちに知ってほしい」と話してくれた。


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