「男の職場」のイメージが根強い新車販売現場
先日とあるメーカー系ディーラーを訪れたとき、女性管理職が応対してくれたことがあった(筆者は初めて応対してもらった)。時代とともに女性管理職も以前より目立って増えており、スローペースに見えるが新車販売の現場も確実に変化してきているのは間違いない。
昭和や平成前期でも女性セールススタッフがいなかったというわけではない。「男性と平等に勝負できる」と新車販売の世界の門をたたく女性もいた。しかし、夜間訪問をはじめ訪問販売活動がメインであったなか、「女性は外で売ってはダメ」というところがほとんどだったようだ。別に女性を差別しているわけではなく、購入見込み客となる相手方の自宅などを、女性ひとりで訪れることへのリスク回避がおもな理由となっていた。
訪問してみたら独身男性で無理やり自宅へ連れ込もうとされたといった話も聞いたことがある。また、店としては外売りを女性でも許していても、訪問された客から「女性ひとりでよこすなんて非常識ではないか」とお叱りを受けることもあったそうだ。また、仮に訪問先で問題なく営業活動ができて受注できたとしても、当時は現金払いが当たり前なので数百万円という現金を抱えたまま移動することも珍しくなかったので、犯罪に遭うことについても男性よりも気をつける必要があったようだ。
10時から18時ぐらいが新車ディーラーの一般的な営業時間となっている。いまではこの時間内はほぼ店内にいることになる。筆者がフリーでディーラーを訪れると、「ご予約はありますか」と聞かれることが多いので、いまは商談も事前予約が当たり前となっているようだ。現状では働き手不足も手伝って交代で休むこともままならないので、店舗を完全週休2日制にするディーラーが目立ってきている。就労時間(だらだら夜遅くまで働かない)や休日がしっかりしてきたので、子育て中であっても十分に働くことが可能なようにも見える。
過去には、夜間に客の自宅を訪れれば、当然ながら子どもたちもいることになる。そこで意味もなくデカい電卓を出して計算して見せることで、子どもを喜ばせるといった余興をどこまでできるかもセールススタッフの能力のひとつとされた。当時は現金販売が当たり前だったので、受注時や集金時にお札を数えて確認する必要があった。そのときも銀行員が扇を描いて勘定するような、「華麗な数え方」を見せないと客が不安がるともいわれ練習もしたそうだ。
しかし、いまではローンの利用が増え、現金販売でもセールススタッフの持ち逃げやマネーロンダリング防止など、防犯上の問題もあって口座振り込みが当たり前となっており、現金を触ることはほとんどなくなったとも聞いている。
これら職人気質のような見せ場も必要なくなったので、過去に比べればはるかに働きやすくなってきているのが新車販売の現場である。
デジタル化も進み、それが働き方改革に貢献するなか、相変わらず女性の少ない職場のひとつが新車販売の世界だと筆者は見ている。環境整備は進んでいる、あとは「男の職場(男しか働けない環境の職場)」というイメージを積極的に払拭していくしかないものと見ている。