ホットハッチらしい「音」も楽しめる
また、インテリアはさすがプレミアムを標榜するだけあって、質感は上々。ランバーサポートの張ったスポーツシート形状でありながら、GTSに用意されるナッパレザーのネイビー&アイボリーホワイトの仕上げはシックそのものだ。シフトコンソールにはA110と同じようにDNRがボタンで配され、スノーフレーク柄のトレイも備わる。横長に角張ったメータークラスタも往年のR5アルピーヌ風だが、10.25インチの液晶モニター表示で、ややドライバー側にチルトされた10.1インチのタッチスクリーンと巧みに配置されている。
スリースポーク・ステアリングの内側にも注目だ。右上の親指部分には赤いOV(オーバーテイク)ボタンがあり、長押しすると10秒間フルパワーを解き放つ。また、左下にはRCH(リチャージ)コントローラーがあり、回生ブレーキの強さを0・1・2・3の4段階で選べる。採用されるブレンボのブレーキはバイ・ワイヤで、モーター回生と油圧ピストンによる制動の境目を巧みにコントロールする。右下にはドライブモード選択ボタンで、セーブ/ノーマル/スポーツ/パーソナライズの4種類が用意される。
もうひとつ、A290のインテリアで忘れてならないのは、ドゥヴィアレというフランスの音響メーカーと協業して、足かけ15年にわたって約250件もの特許取得の上で開発された音響システムだ。これは20cm径サブウーファーを含む9つのスピーカーシステムで、あらゆる音源を「忠実/スピーチ/ダイナミック/ヘビー」の各モードに応じて動的にプロセッシング&コントロールして再生する。
のみならずこのオーディオシステムには、ホットハッチらしい走りに没頭できるよう、「アルピーヌ・ドライブ・サウンド」が組み合わされている。これはエンジンのエキゾーストめいたフェイク音ではなく、電動モーターの信号や駆動する音を拾って増幅し、アクセルの踏み込み具合や加速、クルマの挙動に応じて駆動ソースの音を奏でるような仕組みだ。
ワークショップでデモを聴いた限りでは、ICEの排気音とジェットエンジン音の中間的なニュアンスのサウンドで、加速するにつれ低くくぐもった音から伸びのある艶やかなトーンへと変わっていく。バンプなどでタイヤが一瞬スリップすると、回転音がそのぶん上ずったりもするほど、リアルな体感に沿った「走行音」を作り出す機能なのだ。
もち上げたい領域とトーンをある程度のところまで増幅してよりリッチな再生音を出力する点では、考え方は音楽の音源をデジタル>アナログ変換するのと同じ。モーターの駆動音を音楽のように扱うことで、ICEのエンジンで感じられるような、ドライビング操作に呼応するビート感を創り出しているのだ。これは体感できる「装飾的な」機能どころか、耳から入ってくる精度の高い情報が、シリアスなスポーツドライビングには不可欠という考え方なのだ。
そしてお待ちかね、足まわりや走りに関しての概要だが、オーバーハング重量を軽減してマスを車体中央に集めるため、前後サブフレームやサスアームにはアルミニウムをふんだんに用いている。ダンパーにはハイドロリック・バンプ・ストップを採用し、フロントサスがマクファーソン・ストラット式、リヤサスはマルチリンク式だ。タイヤもミシュランによる専用開発で、厳冬のスウェーデンで氷雪路テストを重ねて完成されているという。トルクマネージメントシステムを採用しているが、これはあくまで駆動力を最適化するためのもので、ブレーキの片側をつまむブレーキベクタリングに留まっている。
むしろこの「アルピーヌ・トルク・プレコントロール」の特徴的な点は、即座に駆動トルクを吐き出せるBEVだからこそ、日常的に扱いやすく、いざスポーティに走らせた際もトリッキーなハンドリングにならないよう、最適なトルクのかけ方と自然なアクセルペダル・フィーリングを、アルゴリズム化していることだ。当然これは、バッテリーを無駄に消費しないためでもある。
ところでインフォテイメントはグーグル・ネイティブなので、ナビ案内では充電ステーションの場所や充電時間も配慮した最短ルートをはじき出す。充電速度はDCの急速充電なら100kW、ACなら11kWまで対応しており、15分の急速充電で約150km分のバッテリー電力を取り戻すことが可能だとか。CHAdeMO規格でも同等の充電速度は確保できる見込みとのことだが、加えてA290 はV2G(グリッド)、V2Lといった外部機器への給電にも対応できる。
さらに、走りの楽しさを高めるデバイスとして、車載テレメトリーは旋回や加速などアジリティにまつわるGセンサーや出力の状態をリアルタイムで見られるライブモード機能や、ドライビングを評価するコーチング機能、またはドライバーにあれこれクリアすべきエクササイズを課すチャレンジ機能もある。チャレンジ機能は無論、ゲームの発想で生まれたものだが、クローズドコース限定でこなすような、本気のものも含まれるとか。
A290はアルピーヌが数年前から予告していた3台の電動化モデルによる「ドリームガレージ・コンセプト」の先鋒で、第2弾、第3弾はSUVクロスオーバーGT、A110の後継となるピュアBEVのベルリネットが予定されている。以前のルーテシアR.S.もしくはメガーヌR.S.のようなサーキット志向のホットハッチでこそないが、日常的に乗りやすくて走りの純度は高いという、アルピーヌの伝統に根ざすBEVといえる。
欧州では年末にデリバリー開始、日本導入は2026年以降となる見込みだ。なお、この発表の場にはアルピーヌのエンデュランス&F1チームのドライバー&チーム監督が勢揃いし、先日離脱の決まったエステバン・オコンも姿を見せた。