開通前の「ホンモノの高速道路」を使って実験! クルマの安全性向上に活用すべく名だたる企業がズラリ!! (2/2ページ)

自動車メーカーはここで何をしている?

 さて、先のページで述べたように、この路車協調実証実験には、10もの企業が参加している。一部はそのバックに企業がついている場合もあるので、細かくわければその数は倍以上だ。

 今回は、この実験にかかわっている「KDDI」と「ソフトバンク(ホンダ)」の3社に、どんなことをしているのか少しだけ話をうかがった。

 まずは携帯電話会社の「au」でお馴染みのKDDIだ。同社は一見クルマとは無縁そうに見えるが、20年以上に渡ってトヨタと協力関係にある。たとえばトヨタのカーナビに備わり、2022年までサービスが提供されていた電話帳などが取り込めるG-BOOKなどのサービスもKDDIがかかわっている。また、レースの世界、スーパーGTでも長年auの看板を背負ったマシンが、トヨタのワークスとして活動するTOM’Sから出走している。ディーラーではauの携帯電話を買えたりもしたので、クルマと密接な関係にある。

 今回、KDDIは主に光ファイバーによる高速通信技術のテストを行なっているとのこと。我々にデモンストレーションで見せてくれたのは、遠隔操作による自動運転技術だ。

 これは、管制室のような場所から、自動運転で走る他者のクルマを操作するというモノ。これだけ聞くと、そう珍しい技術ではないのだが、ここで問題となるのが画像による遅延だ。クルマは走っているので、道路や周辺の状況は刻一刻と変わる。なので、「なんとなく見えてればいい」では大事故になりかねない。

 そこでKDDIは、とにかく通信ロスの少ない、光ファイバーを使った超高速データ通信技術と、それでもカバーしきれない周囲の状況をAI技術などで予測して、遠隔で操作する作業員に状況をいち早く伝える技術を研究。「ケース3:車載センサー等を活用した維持管理情報や運行支援情報等の収集・提供」「ケース4:コネクテッド車の緊急停止時における遠隔監視・操作」のセクションにかかわっているという。

 使用するクルマは研究開発期間向けに販売されている、トヨタ・エスティマをベースにした自動運転車(レベル4相当まで対応)で、KDDIが開発したセンサーを各種搭載する。自動運転技術には欠かせないセンサーであるLiDARがひとつと、各種カメラが6つ備わる。

「なんでKDDIが高速道路で実験?」となるかもしれないが、じつは自動運転技術の発展には欠かせない企業のうちの1社なのだ。

 次に、ソフトバンクとホンダの取り組みを見ていこう。

 両社は、やはりKDDIとトヨタ同様に長きに渡って業務提携を行なっている。今回両社は、セルラーV2Xというクルマとさまざまな設備や端末と通信する技術を用いて、事故リスク減少を目的とした実験を行っている。「これってKDDIと被るのでは?」という疑問も出るかもしれないが、簡単にいうと前者は映像などのデータ容量が重い通信、後者は比較的軽量な通信を行うといったことで棲みわけされているとのこと。

 今回は、実験コース内に設置されたセンサーとコネクテッド技術を使って、前方の車両(バイク)の急な車線変更をいち早く後続車に知らせるというシステムを実験していた。これは、非コネクテッドカーとコネクテッドカーが混在する実際の状況に近い想定で行われており、情報通知と数秒先のリスクを想定し、事故や急減速といったリスク回避をすること目的だ。

 流れを簡単に説明すると、以下のようになる。

①:高速道路上のセンサーが車両の動きを検知
②:車両情報を道路管制センターが受信
③:情報連携プラットフォームでリスク解析
④:周辺リスク情報や車両情報を周囲のクルマに瞬時に共有

 このようなデータのやり取りを瞬時に行うための技術を、ソフトバンクとホンダで開発中という。あまりにも経由するポイントが多いので、「本当にこれが走ってるクルマにロスなく伝わるのか?」と確認したが、「大丈夫です」と自信満々な返答。

 ちなみに、コネクテッドカー同士であれば道路管制センターを経由せずにクルマ同士で通信が可能なので、より素早くリアルタイムに周囲のクルマの挙動が、ドライバーに伝わる環境となるとのこと。

 今回は、「コネクテッド対応のバイク」と「コネクテッド対応のクルマ」、「非コネクテッドのクルマ」の3台を使っており、例として「急な車線変更をしてくるバイク」を通知する実験がメインであった。

「すでにあるBSM(ブラインドスポットモニター)とは何が違うのか?」と聞くと、「あちらは接近してきてから機能するので遅いのです。こちらは車線変更のリスクを前もって瞬時に予測して、コネクテッドに対応したクルマのドライバーに瞬時に知らせるので、より安全です」との返答があった。バイクやクルマの加減速時のスロットル開度までモニタリングし、そこからの動きを予測することもできるそうだ。

※画像はイメージ

 さらに、ホンダではバイクとクルマを販売しているアドバンテージがあるので、それぞれの車両の動きを予測するタスクアルゴリズムの構築にも強い。バイクにおける右直事故が非常に多いが、どちらかひとつしか扱ってないメーカーや、IT関連のメーカーだとそういった事故のデータ量に乏しいので、いざ安全技術に手を出そうとしてもあまりノウハウがない。しかし、ホンダであればどちらも対応することが可能だ。

 そこにソフトバンクの通信技術が組み合わさることで、ホンダが掲げる「2050年までに交通事故死亡者数をゼロにする」という目標により近づくというわけだ。

 ぜひ実際に見てみたかったが、この日は実験が行われなかったのが悔やまれる。

「これは実験であって製品化などはされるのか?」と思ったので、この技術の将来についても聞いてみたところ、「この技術を生かした製品は2020年代には展開したいと思っている」という前向きな回答も得られた。

 この日は、前方になんらかのトラブルで停止したクルマから発した情報を後続の大型トラックが受信し、未然に追突事故を防ぐといったデモンストレーションなども実施。ここで使われたトラックは日野のプロフィアがベースで、LiDARが5つとカメラが6つ装備された車両を使用していた。この車両は「ケース3:車載センサー等を活用した維持管理情報や運行支援情報等の収集・提供」に使われているとのこと。

 NEXCO中日本は、この実験の場を7月末まで展開し、その後は開通へ向けた工事を行うとのことで、今後同じような実証実験をやるかは未定とのことだったが、「工事途中の路線で実証実験をした」というケースが存在することにより、日本のどこかで高速道路や一般道の工事を実施する過程で、似たような先進的な実験を行えるかもしれない。

 たった3カ月、距離にして5km程度の範囲で行われた実験ではあるが、この実験は自動車業界の技術発展における大きな一歩になるはずだ。


WEB CARTOP 井上悠大 INOUE YUTAI

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