スポーツカーのブレーキにはウチのクルマにはない謎の溝が見えるけど何? 意外と知らない「溝」がもつ2つの効果と1つのデメリット

この記事をまとめると

■一部のブレーキローターには線が刻まれていることがある

■この線にはブレーキ使用時に発生するガスやダストを取り除く役割がある

■街乗りで使用する場合はブレーキパッドの減りが早いというデメリットが存在する

ブレーキローターに入ってる線の役割とは

 スポーツカーのブレーキローターに入っている謎の線。これはスリットと呼ばれるもので、スポーツカーにはあるが普通のクルマにはないもの。このスリットとは何のためにあるのか。それはブレーキ使用時に発生するガスの排出とパッドをリフレッシュするためである。

 まずはガスの排出とはなんなのか。ブレーキパッドはさまざまな繊維や樹脂、金属粉などを高温で圧縮しながら焼いて固めてある。そしてこれらの成分のなかに含まれる樹脂などは高温になると煙となる。この煙が曲者で、パッドの表面から煙が噴出すると、パッドはローターから浮いてしまうのだ。そうすると、パッドとローターの間に煙が入って、パッドが摩擦できなくなってしまうわけだ。これがフェード現象と呼ばれるもの。

 これはブレーキ関係のトラブルでもっとも危険なもので、ブレーキが一瞬にしてまったく利かなくなることがあるほど。そこでその対策としては樹脂成分の少ないパッドを使う。主成分が金属になっていけば燃えて煙になることがないので、煙が出にくくなる。レースでは、金属成分を焼いた「焼結」と呼ばれるパッドが使われるのもこのためだ。

 とはいえ、そういったパッドはストリートでは鳴くし減るし、とてもじゃないが普段使いは難しい。ならば、多少ガスが発生するパッドでも、ローターにスリットを入れれば、その部分でガスを回収し、外に排出してやれば、フェード現象が起きにくくなる。そういった狙いでスリットが入れられているのだ。

 もうひとつスリットの効果がパッドのリフレッシュ効果だ。

 パッドの表面をスリットが通るたびにスリットのエッジがパッドを微妙に削っていく。パッドにフェード現象などが起きて正面が焼けてしまっても、スリットで削っていくのでいつでもフレッシュなパッド表面が出てきて、安定したブレーキの利きを得られる。

 また、このパッドをリフレッシュする効果によってややブレーキの利きが強くなる傾向もある。

 デメリットは単純にパッドが減りやすくなること。スリットの本数や角度等によっても変わるが、スリットなしのローターに比べて、1.5~2倍くらいの速さでパッドが減るイメージだ。

 とくにスリットが回転方向に対して外周側から先に当たるような角度の場合、パッドがさらに減りやすいと言われている。だが、利きは強くなる傾向にあるといわれているので、「利きは十分なので、パッド寿命を延ばしたい」なら、左右ローターを逆に使ってパッドに当たるスリットの向きを逆にすることで減りが若干抑えられる場合も。

 アフターパーツメーカーではまっすぐなスリットだけでなく、カーブしたものや、カーブにさらに異なる形状の溝が掘ってあるものなどがラインアップされている。各社ともにできるだけガス抜き効果は保ちつつ、パッド摩耗を抑えるようにしてあったりと工夫が見られる部分ともいえる。

 同じような効果を狙ってドリルド加工されたものもある。こちらもガス抜きやパッドのリフレッシュ効果を狙ってローターに穴が開けられているものだが、この穴からクラックが広がりやすいといわれており、最近のアフターパーツメーカーのローターでは採用例は少ない。それでも純正ローターではドリルドローターを使っている欧州車もまだまだ見受けられる。


加茂 新 KAMO ARATA

チューニングジャーナリスト

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