広い速度域でしなやかな乗り心地を実現
「必要となる」大義が生じてこそ、簡素でも練り込んで作るのが、フランスひいてはシトロエンの伝統芸だ。室内に目を移すと、ダッシュボードはエアコンのベンチレーターを一体化しつつ、まるで収納家具のような2段構造で、真ん中に小物を載せられる点は、ほとんど2CVのよう。乗り込むたびに目にするこの場所に、2CV的かつ実用的な意匠を盛り込んでくる辺りが、お洒落過ぎる。しかも、ハードプラスチックのカサカサした質感ではなく、スリットの入ったファブリックが下段に張られていて、質感の面でもビンボー臭さが微塵もない。
ただし、ノスタルジックな雰囲気だけではなく、10.25インチのタッチパネルやスマホのワイヤレス充電トレイ、プジョーのi-コクピット同様にステアリングの上から読み取るミニマムなメーターなど、モダンさも忘れられていない。エアコンの操作スイッチも質感のいいトグルスイッチとなっている。シトロエンはこれらのインテリアロジックを「C-ZENラウンジ」と名づけ、今後はほかの車種にも展開していくはずだ。
シートも上位車種と同じく「アドバンストコンフォート」化され、先代よりクッション厚が10mm増した。ルーフ高に余裕があるからこそできる芸当で、しかもルーフ内側にはこれまた2CVを彷彿させる横方向の補強バーがみてとれる。
後席乗員のレッグスペースも、大人に無理を強いない程度に確保され、6:4分割リヤシート後方のトランクには、310リットルの容量が与えられている。細かいところだが、グローブボックスを開けると歴代のシトロエンが姿を見せたり、リヤウインドウにエッフェル塔をはじめとしたパリの街並がプリントされているあたりは、隠された愛嬌ディテールといえる。
観察すればするほど、シトロエンの快適さというか勝利の方程式に絡めとられていく気がするが、走り出すとそれは決定的になる。重いバッテリーを提げているがゆえ、平滑な道路では電子制御の可変ダンパーで乗り心地もフラットだが、少し凹凸のある路面を低速で通過すると途端に足もボディも暴れ出すのが、凡百のEVの常。ところが新しいC3ときたら、しなやかで滑らかな乗り心地が、市街地での徐行域から100km/hでカントリーロードを走る局面まで、まったく変わることなく持続する。踏切の継ぎ目とか、パッチ路面でサイクリストに囲まれて速度を落とした際でも、イヤらしい突き上げやドタバタした縦揺れが、一切ないのだ。
これもアドバンストコンフォートパッケージの効能で、PHC(プログレッシブ・ハイドロ―リック・クッション)による二重の減衰がきいたダンパーを備えるゆえだが、Bセグのジオメトリーで1.4トンを巧みにコントロールできる、新プラットフォームの剛性の高さにも帰せられるだろう。
平滑な道を直進するとき、ステアリング中立付近がやや心もとないフィールはある。それでもコーナーでステアリングを切り始めれば、速度に対して車体のロールスピードはつねに速すぎず、ジワリと安定した感触で追従してくる。この盤石のロードホールディングと頼もしいトレース性を利して、少し荒れたカントリーロードをハイペースで、しかも快適に駆け抜けられるのが、C3のスイートスポットといえる。
120NmというトルクはBEVとしては笑っちゃうぐらい非力なはずだが、いざ加速すればトルクカーブが高止まりしてフラットに仕事するので、1.4トンはBEVとしては決して重くないことを思い知らされる。135km/hでリミッターが利くものの、83kW(113馬力)のトップエンドまで使い切る必要はほぼない、という現実的なセッティングでもある。
かようにC3は、闇雲にチェンジを求めただけの一台ではない。それこそ欧州の庶民感・生活感を反映するBセグメント・スモールが、電動化の必要性に背中を押され、ここまで快適になることに驚かされ、圧倒される。太古の2CV的アプローチが健在な一方で、今回のMT仕様のボディカラー、ブルー・モンテカルロとホワイトのツートンは、2CVにインスパイアされた色でもある。
ちなみに本国でのC3のCMは、「EVはもはやエリートだけのものではない」という売り文句で、フランス革命を彷彿させる動画となっている。微に入り細に入り練り込まれた優等生グルマどころか、革命を呼びかけるなかなかヤバい一台ということだ。