クルマの価格が全国で統一される日も近い?
そして、新型コロナウイルス感染拡大を経て、半導体不足などもあり新車の供給体制に問題が発生し、深刻な納期遅延が発生した。さらに諸物価高騰もあり、単純な車両価格の値上げのほか、改良のタイミングで物価上昇分も加味した、つまり、値上げ分も反映させた新価格設定も目立ってきている。
納期遅延はおおむね改善傾向にあるもののコロナ禍前のレベルとまではなっておらず、コロナ禍前のようにディーラーが実車を抱えるというよりは、ディーラーごとに月単位で生産枠を設け、その枠内に発注が入ると納期が短くなるという仕組みをもつメーカーがあったり、生産工場脇にメーカーがストックヤードを設け、そこでアクセサリーなどを装着してディーラーへ出荷するなど、ディーラーに在庫をあまりもたせない方策をとるようになっているケースもあるようだ。
いずれにしろ値引き原資はディーラー利益を削ることになるのだが、生産原価も上昇する一方ということもあり、ディーラー利益は減る一方なのが実情だ。昨今、値引きがかなり引き締まっているのが目立つのにはそういった背景がある。
ディーラーオプションについても値引き余力は減っているので、以前ほど派手な値引きはできない様子だ。
となれば、家電の指定価格のような統一価格にすれば、どこでも購入条件は同じなので自宅最寄りなど、自分の利便性の高い店へ行って買うだけということになる。最近では「商談がめんどう」ということで新車ディーラーから距離を置く人も目立っているというから、商談について値引き交渉が介在しないことで「タイパ(タイムパフォーマンス)」もよくなるものと考えられ、積極的に新車を購入しようという動きを喚起できるかもしれない。
新車販売の指定価格販売でネックなのは下取り車の有無となる。いまでも新車購入での値引き交渉でカギを握るのは、下取り査定額にどこまで値引き不足分を上乗せできるかだ。また、下取り査定額は同年式同グレード、同色同オプション選択であっても算出される査定額は使われ方で異なってしまう。つまり下取り査定額を含めた支払総額では個々で異なってしまい、不公平感を助長してしまうことにもなる。
この点については、新車販売やメンテナンスサービスの利益だけでは食べていけない、いまどきのディーラーは中古車販売を積極的に行っているので、新車販売と下取り車の買い取りを完全分離すれば解決できるだろう。査定額に値引き不足を上乗せして下取りすれば、仮に「新車を買ってもらう」ということを考慮して相場より高めの買い取り額となっても、そこの収支は新車販売とは別になるので、「指定価格販売」に影響を与えることはないだろう。適正価格での買い取りが進むことになるので、中古車価格にもよい影響を与えるかもしれない。
昔のように交渉次第で40万円引きや50万円引きが引き出せるのなら話は別だが、現状の新車販売では、改良も含め新型になればなるほど値引き余力はわずかとなり、人気車のなかには「原則値引きゼロ」というケースも珍しくない。そうなると、消費者が十分に納得できるお値打ち感の高い指定価格ならば、新車の指定価格販売も今後は十分にあり得るのではないかと考えている。
かねがね、「交渉上手な人」とか「コネのある人」など、一部のひとだけが好条件で新車を買うことができることへの不満というものもあった。また、昨今ではローンを利用して新車を購入するケースが増えており、しかもその多くは残価設定ローンなので、再販価値の高いクルマほど月々の支払い負担の軽減が可能となっている。そして、再販価値維持の大敵は大幅値引き販売となっている。ローンの利用が増えると単純に値引き額ではなく、月々の支払額ベースで条件交渉も進むので、新車の買い方もずいぶん変わってきているのだ。また、個人向けカーリースも充実してきている。
「コスパ(コストパフォーマンス)」さえよければ、新車購入時の「タイパ(タイムパフォーマンス)」もだいぶよくなるので、新車販売でも指定価格販売が登場してくるかもしれない。