今においても唯一無二の孤高の存在
そうした価値観が昇華、市場に広まったのが1986年に誕生した3代目デリカだ。スターワゴンの名称を受け継ぎ、2.5リッターガソリンエンジンの3ナンバー仕様をラインアップするなど上級ワゴンらしく進化させた。
2代目モデルに続き、副変速機付きの本格的な4WDシステムを搭載、大径タイヤと組み合わせたことも記憶に残る。それによってデリカ=クロカン1BOXというイメージを強化、独自のポジションを手に入れたことも印象深い。
当時のトレンドに則り、前後左右にパイプガードを配したスタイルや、明るいキャビンを実現する「クリスタルライトルーフ」、停車時に楽しめる回転対座シートなども3代目の魅力であった。
こうしてバブル経済期に日本の自動車市場を席巻した“RVブーム”の中心にあったデリカは、1994年にドラスティックなフルモデルチェンジを果たす。新たにスペースギアというサブネームを与えられた4代目デリカは、それまでのキャブオーバースタイルから、短いながら鼻先をもつセミキャブオーバーに変身した。
ただし、エンジン縦置きFRベースの4WDという駆動方式は変わらなかった。4WD機構は本格オフローダーのパジェロと同様のメカニズムで、走破性はミニバンといえないハイレベルなもの。
ホイールベースから異なるロングボディと標準ボディを用意したのも、当時のクロカン4WDのトレンドに準じたものだった。「スーパープレジャーRV」という開発コンセプトによりミニバン×SUVという価値観をさらに高めたのが4代目のスペースギアだ。
現行型へのフルモデルチェンジは2007年。「デリカD:5」というネーミングは、デリカとして5代目になったという伝統をアピールするものだが、メカニズム的にはついにFFベースとなった。これにより走りと快適性を向上、乗用車らしい乗り味に磨きをかけ、ミニバンとSUVの“いいとこどり”キャラクターへと進化した。
フルモデルチェンジした当初はガソリンエンジン+CVTのパワートレインだったが、のちに現在も搭載される2.2リッタークリーンディーゼル+8速ATへスイッチ、2019年には現在のダイナミックシールド顔になったことで、タフネスなイメージを強めたことは記憶に新しい。
三菱長年のノウハウを結集した「AWC」に基づいた4WD制御は、2WD/4WDの切り替えだけでなく4WDロックというオフロード走行を意識したモードを持つのが特徴。ロックモードでは前後駆動バランスが均等に近くなるというのは、副変速機をもっていた時代の直結4WDを想起させるものだ。
このようにFFベースとなってもデリカが培ってきたクロカン1BOXというキャラクターは薄まるどころか、しっかり強化されている。2023年のJMS(ジャパンモビリティショー)では、未来のデリカをイメージした「D:X Concept」を披露した。このコンセプトカーはプラグインハイブリッドを想定、S-AWCに基づく電動4WDパワートレインになるということだ。
FFベースとなった5代目においても、デリカらしさは薄まるどころか色濃くなっていったことを思えば、電動化したデリカも伝統を感じさせる走り味が期待できそうだ。