ATといえど特性は多岐にわたる
というわけで、現時点の乗用車に採用されているであろうオートマの変速機構は以下の3タイプだ。
・遊星歯車式
・ベルト式
・常時噛合式
そしてクラッチ機構については以下の3パターンが主なところとなっている。
・トルコン(トルクコンバーター)
・単板クラッチ
・多板クラッチ
具体例を見てみよう。
軽自動車やコンパクトカーなど国産車に多いCVT(無段変速機)については、ベルト式の変速機構とトルコンタイプのクラッチを組み合わせていることが多い。
遊星歯車式の変速機構を持つステップATにおいてもトルコンと組み合わせているタイプが主流。古くから遊星歯車+トルクコンバータークラッチが多かったため、それが前述した「トルコンAT」という通称につながっている。
常時嚙合式の歯車(ギヤ)は2タイプに分類できる。ひとつはMT同様の一軸に複数のギヤセットが並んでいるもので、もうひとつはふたつのシャフト(軸)に分かれてギヤセットが並べられているタイプだ。
後者のタイプはDCT(デュアルクラッチトランスミッション)と呼ばれるが、名前の由来はふたつのシャフトごとに多板クラッチを持っていることにある。その代表格といえるのは、フォルクスワーゲン各車が積んでいる「DSG」だろう。
MT同様の一軸構造の変速機構をベースとしたオートマの場合、クラッチの構造もMTと同じようになっており、変速やクラッチの制御を自動化しているだけのことが多い。そのためAMT(オートメーテッド・マニュアルトランスミッション)やRMT(ロボタイズド・マニュアルトランスミッション)などと呼ばれることが多い。少し前までスズキの軽自動車で多く見られた「5AGS」が典型的なAMTだ。
それぞれに特徴はあるが、軽量かつローコストで、伝達効率にも優れているのはAMTだ。ただし“うまく運転”してやらないとギクシャクしがちという欠点がある。
DCTは瞬時に変速することができるので加速が鋭く、エンジン出力を無駄なく活用できるというメリットはあるが、多板クラッチゆえにクリープ現象(ブレーキペダルから足を離したときにゆっくり移動する現象)がなく、疑似的にクリープ現象を生み出すために、極低速でギクシャクしがちという欠点を持つ。これはステップATと多板クラッチの組み合わせでも同様だ。
トルコンとステップATの組み合わせは、もっとも広まっているオーソドックスなタイプ。8速以上の多段変速になれば変速ショックも小さく、トルコンゆえに低速から高速まで走りは滑らか。最近では条件を満たすとトルクコンバーターをロックアップ(直結)する制御が組み込まれていることが多く、伝達効率も向上している。
ベルトとプーリーにより無段変速を行うCVTに組み合わされるクラッチ機構はトルコンが主流だ。このシステムのアドバンテージは、速度や加減速に合わせて、常に最適な変速比にできることだ。エンジン効率だけでいえば、最大熱効率の回転数を維持するよう変速比を変えていくことがベストといえるからだ。
ただし、そうした制御はドライバーに違和感を覚えさせるという指摘もあり、無段変速本来のメリットを活かしきれていない制御も見受けられる。逆にいえば、無段変速をあえてステップ変速させることでマニュアルトランスミッションのようなフィーリングを疑似的に生み出せるのはCVTの特徴ともいえるだろう。
そしていうまでもなく、フルハイブリッドやBEV(電気自動車)など、モーター駆動で走るクルマであっても、クラッチペダルの操作が不要なので、オートマ限定免許で運転できる。BEVの多くは多段変速機構を持たず、固定したギヤ比でモーターとタイヤがつながっている。フルハイブリッドでも同じような構造をもっているタイプは多い。こうなると、ユーザーはトランスミッションの違いを把握する必要はない。
電動化時代においては、もはやオートマの構造による特徴を知っておくこともなくなっていくだろう。