この記事をまとめると
■改造車には地域ごとにカスタム手法が存在する
■かつてブームになったVIP仕様にもさまざまな仕様が存在する
■東北VIP勢のなかでも有名な「仙台仕様」について解説する
改造車にも地域ごとの仕様が存在する!?
関東や、もう少し範囲を広く取って東日本の(少し古い)クルマ好きの間では「チバラギ」という言葉は馴染みがあると思います。これは千葉、茨城という東関東の県名を掛け合わせた俗語で、意外と古くから使われている名称のようです。広い意味では東関東を田舎者扱いするときに使われますが、これが「チバラギ仕様」と仕様が付けられると、その方面の特色を持った改造車を指す言葉になります。
「○○仕様」という呼び方は日本各地にあって、ほかに有名なのは「福岡仕様」だと思いますが、北の有名どころだと「仙台仕様」というスタイルも、その筋では根強い支持を集めているようです。
ここではその「仙台仕様」にスポットを当てて調査をしてみましたので、その概要を紹介していきましょう。
■「仙台仕様」は「東北VIP」の筆頭勢力?!
若い層の人たちはあまり馴染みが無いかもしれませんが、1990年代にカスタムシーンを席巻して大ブームを起こした「VIPカー」というムーブメントがありました。「仙台仕様」というのはそのVIPカーのスタイルの一角である「東北VIP」の筆頭勢力として、VIPカーの世界で名が通っていました。
みなさんご存じのとおり東北地方は冬に雪が降る地域が多いため、カスタムカーのなかでもとりわけ車高の低さを競う面のあるVIPカーは、走るのが困難となり冬眠に入らざるを得なくなります。しかし、走れないからといってカスタムに対する情熱も冬眠するわけではないため、「冬眠させている間にカスタムを進めてしまおう」という感じで雪解けまでの数カ月の間、じっくりと車両に手を加えるケースが多いようです。
その結果、かなり手の込んだ気合いが入った仕上がりの車両が多くできあがり、全国の目の肥えたカスタムフリークから見てもレベルが高く、マニアも一目をおく存在となってその評価が定着しました。
とくに東北の中心都市である仙台には、高い実力と情熱をもったショップが多く存在することから、東北VIPのスタイルを代表して「仙台仕様」と呼ばれるようになったようです。
■有力チームが「東北VIP」のトレンドを牽引
「仙台仕様」のスタイルは、VIPカーの専門誌などによく採り上げられるいくつかの有力チームがそのトレンドを牽引していたようです。
有名なところでは「ランティス」、「仙台ジャスティス」、「トレンディ」、「ファイナル」、「カルチェ」などで、チームに所属することが多かったVIPカーのオーナーの多くは、これらの有力チームに憧れてそのカスタム車両を参考にするケースも多かったようです。
東北各地でおこなわれるカスタムカーのイベントでは、それら有力チームの手がけた車両に人だかりができることも珍しくありませんでした。
■「仙台仕様」の特徴とは?
ここからは「仙台仕様」カスタムの特徴を把握するため、ポイントとなる部分をいくつか挙げてみましょう。
※このなかには一般的なVIPカーのカスタムを表す部分も入っていますし、筆者が感じた見解も含まれていますので、あくまで“参考”としてください。
・“ツルシ”ではない“オートクチュール”が至高
VIPカーの基本は、「シャコタン」、「深リム大径ホイール」、「アンダーエアロ」の三要素です。VIPカーのスタイルに憧れてその世界に踏み込んだときにまずおこなうのは、ホイールとエアロを装着して車高を落とすことです。その三要素でVIPカーのスタイルの5割はでき上がる(※個人の主観です)ため、ほとんどの人はそれでおおむね満足しますが、業界のトレンドを牽引するようなトガった作り手は、そんなレベルではとうてい収まらず、目立ち度や完成度の高さを追求するようになります。
そうなると、用意したエアロやホイールなどのパーツを装着するのはスタートラインに過ぎず、それをいかにスタイリッシュに、個性を表現できるかを模索し、その理想を実現するために手のかかる加工をおこなって仕上げることになります。
そうして手の込んだ加工が施された車両は、ファッションの世界でいう“オートクチュール”で仕立てられたような特別感が備わって、そういう車両のオーナーは羨望の目で見られるようになります。
・車高は低いほどエラいが外装は控えめがポイント
カスタムの世界では「着地」という表現があります。これはシャコタンの度合いを表す最上級の言葉です。最低地上高の低さがその車両の評価を決める大きな要素となるVIPカーの世界では、その低さの目安となるサイドのエアロと地面の隙間がいかに少ないかがまず注目されます。そのため、隙間がほとんどゼロの車両に対しては、「おお、着地してるぞ……」というように驚愕を込めて讃えられます。
その一方で、VIPカーカスタムの三要素のひとつである「アンダーエアロ」の選択と装着法にはいろいろな流派があり、大きくはハデさを好む流派と純正を意識した控えめな仕上がりを好む流派に分かれます。「仙台仕様」はどちらかというと後者の流派に入ると思われます。
とくに近年のVIPカスタムシーンでは「洗練」がキーワードになっているようなので、その流れに共鳴して「仙台仕様」が再注目される動きも見られます。